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楽しい夜は 4
「な、何を言って……ッ」
「あら? 違った? 透ちゃん、メロメロだって聞いたんだけど」
「……っち、違います! 俺は別に……っ」
絶対アキラだろっ! おかしなことを吹き込んだのは!
ぎろりとそちらを睨み付けてやれば、アキラは悪びれた風でもなくペロリと舌を出してきた。
「え!? マッスーメロメロだったん!? ホント!?」
「クッ……、んなわけ無いだろ……っ」
キラキラと目を輝かせて食い付いてきた和樹を小突く。
「痛い……。ちぇ、なんだ違うのか」
「あら、照れ隠し?」
「だ、だから、違いますってば!」
意味深な笑みを浮かべるナオミの視線が何とも居た堪れない。
本当にこの人は……。どうしていつも余計な一言を付け加えたがるのか。
まだアルコールは一滴も飲んでいない筈なのに既に頬が熱い。きっと赤く染まっているであろう自分の顔を隠すように俯けば、隣に座っていた和樹が心配そうな表情で覗き込んで来た。
「大丈夫? マッスー。なんか顔赤いけど……」
(誰のせいだと……ッ)
ギロリと再び睨め付けようとしたところで、カランと来店を告げるベルが鳴り、新たに二人分の足音が近づいて来る。
「……一体いつから此処は幼稚園になったんだ?」
店内を覗き込むなり、透の従兄弟でもある理人が、恋人の瀬名を連れ立ってやってきた。
コートを脱ぎ、ぎろりと店内を見回す表情は眉間に思いっきり皺が寄っており、鋭い眼光と相まってとても不機嫌に見える。
「え、コワッ……マッスー……」
あまりの迫力に、和樹の顔色が変わった。腕にぎゅっとしがみ付き、不安そうにこちらを見上げて来る。
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