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楽しい夜は 9
「あら、浮かない顔ねぇ。幸せじゃないの?」
「幸せ、なんだと思います。でも……、不安になる事の方が多くって」
思わず洩れた本音に、拓海と湊、ナオミが顔を見合わせたのがわかった。
「あ、やべっごめんなさいナオミさん。せっかくの楽しい時間にこんな辛気臭い話しちゃって。……拓海達もそんな顔すんなよ。せっかくなんだし楽しもうぜ?」
慌てて取り繕う様に明るく振舞えば、ナオミがキンキン声を張り上げながら、筋肉質な腕でギュッと抱き締めてきた。
「んもーっ! なんていい子なのっ! 和樹君っ!」
「わわっ、ちょっ! ナオミさん!?」
「恋愛なんてね、いくらでも悩みは尽きないものなのよ。特に男同士だし、相手は真面目が服着て歩いてるような透ちゃんでしょう? わかるわぁ」
「真面目が服着て……って」
確かに、透は見た目こそ軽そうに見えるが、中身は頑固でくそ真面目だ。アキラみたいにルールなんて関係ない。バレなきゃいい精神だったらもう少し自分との関係性も変わっていたかもしれないのに。
「大人になればなるほど、素直になるって難しくなるものなのよ。守らなきゃいけないルールとか規則とかにどうしても、縛られちゃうから」
「……」
「でもね、無理に我慢する必要なんてないの。辛い時に辛いって言えないまま大人になると、あそこにいる目付きの悪いオジサンみたいになっちゃうわよ」
ナオミが指差した先には、さっきからチラチラとこちらを気にしていた理人がタイミングよくクシャミをしていて、思わず笑ってしまいそうになり慌てて口元を引き締めた。
「安心しなさい。透ちゃんは貴方の事大好きよ」
「そ、そう……かなぁ?」
「断言しても良いわ。だから、自信もって、ね?」
パチンとウインクを一つされ、背中をポンと押される。
最初は、ナオミの姿を見てヤバい所に来てしまったと後悔したものだが、実際に話してみるとナオミはとても気さくでトークも上手く、面白い人だった。
それに、何故だろうナオミの後押しは、不思議と勇気を与えてくれる。
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