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楽しい夜は 10
会話の合間にてきぱきとお代わりのアルコールを配ったり、食事を提供してくれたりナオミはせわしなく動いている。
「ナオミさんってすっげーいい人だな」
「でしょ? 見た目あんなんだけど、面倒見もいいしね、結構ナオミさんに悩み相談にくるお客さんも居るんだよ。俺の自慢の上司なんだ」
ジュースのお代わりを持って席に戻って来た湊にそう洩らすと、ふふんと、湊は何処か嬉しそうに胸を張った。まるで自分の事のように嬉しそうな湊に思わず顔が綻ぶ。
湊は学校に居た時は周りに馴染めず、大人しくて何処か暗い表情ばかりをしていた。
ジェンダーレスと言う言葉が浸透してきたと言っても、まだまだごく少数派で、実際に和樹も出会ったのは初めてだった。どう対応していいかわからずに、声を掛けるのを躊躇っているうちに湊は学校を去ってしまったのだ。
今、こうやって見る彼はあの時とは全くの別人のようにも見える。 ナオミや湊を見ていると、自分自身らしくいるという事がどれだけ大変で、大切な事なのか思い知らされる。
「俺さぁ、ナオミさんの勧めで去年から、通信の学校に通いだしたんだ」
「へぇ、そうだったのか」
「凄いよね、あの人。俺は何も言ってないのに、学校に通いたいって気持ちちゃんと汲み取ってくれて。ある日突然、パンフレット渡されたときはマジでビビった」
そう言ってナオミの姿を見つめる彼の目は尊敬と感謝に満ち溢れていて、きっと、彼女は彼にとってとても大きな存在なのだろうという事が伺えた。
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