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楽しい夜は 18
「あー楽しかった。腹いっぱいだし……もう何も食えない」
帰りのタクシーの中、和樹は満足そうに腹を擦りながら座席に深く腰掛けた。
「お前は食いすぎだ。たく、高校生男子の胃袋は恐ろしいな」
「だって、ケーキ美味かったしさ。つか、ナオミさんすっげーな。料理上手で、気が利いてて包容力もあって、トークも出来るとかヤバくね?」
あの短時間で、和樹はすっかりナオミに懐いていた。
和樹自身、元々人当たりの良い性格をしているが、あの短い時間で随分と打ち解けていたようだ。
「なんだ、和樹はああいうのが好みなのか」
別に深い意味は無かった。だが、和樹にはそう聞こえなかったらしい。
「俺、マッスーが好きだって何回も言ってるよね? まだ、わかんない?」
「え、いや、そういう意味で言ったわけじゃなくてだな……」
ムッとした様子の和樹に詰め寄られ、透は思わずたじろいだ。いつもは穏やかで優しい瞳が、今は少しだけ鋭い光を宿している。
まるで獲物を狙う肉食獣のようなその目にドキリと鼓動が跳ね上がった。
――あ、なんかこれマズイかも。
本能的に危険を感じ、逃げ出そうとするが狭い車内ではどうしても行動は制限されてしまう。
「おい、和樹っ落ち着け!」
「俺は落ち着いてる」
じりじりと距離を縮められて窓際に追いやられ、頭にひやりとした窓ガラスが当たる感触にゾクッと背筋が震える。
和樹は相変わらず無表情のまま、透の頬にそっと触れてきた。
「……っ」
冷たい指先にビクリと身体を震わせると、ゆっくりと顎を掴まれ上向かされて――。
「ちょっ待ッ!!」
咄嗟に胸を押し返そうとするが簡単に手首を掴まれてしまい、そのままガラスに押し付けられてしまう。
和樹の顔が近づき、反射的に身を捩るが逃れる事はできない。
鼻先が触れるほどに近い距離に息を飲む。
どうしよう。このままじゃ……。どうにかしないと……。 頭の中で警鐘が鳴るのに身体が上手く動かない。心臓がバクバクと煩くて、呼吸が苦しい。
ドクンドクンと耳の奥で響く心音が、自分のものか、和樹のものかさえ分からなくなってくる。
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