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楽しい夜は 19
「……なぁんてね」
不意に、パッと和樹が拘束していた腕を放して笑いかけてきて、透はポカンと口を開けたまま固まった。
「はは、ドキドキした?」
悪戯っぽい笑みを浮かべる和樹に、からかわれたのだと理解する。
途端にカッと顔が熱くなった。
「お、おまっ……! 悪趣味すぎだろっ大人を揶揄うなよ」
「しないよ。マッスーの可愛い声は誰にも聞かせたくないし……。せっかくのクリスマスなのに嫌われたくないからね」
耳元で色を含んだ声で囁かれ二の句が継げなくなる。
本当に質が悪い。こいつは本当に……、人の気も知らないで……。
透は顔を真っ赤にして唇を噛み締めると、悔し紛れに和樹の足を踵で思いっきり踏んでやった。
「痛ぇ……、もー暴力反対」
「うるさい。いい加減にしとけよ。本気で怒るぞ」
「はいはい」
「返事は一回だ」
「へーい」
呆れて嘆息すると、和樹はおかしそうに笑って透の手をそっと握ってきた。
「本当はもっと一緒に居たいけど……、流石に連日遊び歩いてたら父さん達に怪しまれちゃうし」
「当然だ。流石に心配するだろ」
「うん、だから……今夜はコレで我慢するよ」
そう言って、ちゅっと触れるだけのキスが唇に落とされる。
「…………」
一瞬、何をされたのか分からず、透はパチクリと目を瞬かせた。
「お、お前なぁ……」
慌てて運転席に視線を向けるが幸いにも運転手からは死角になっているようで気付かれてはいないようだった。
「へへ……。それと、コレ。みんなの前だと渡し辛くってさ」
少しはにかみながら、和樹がカバンから小さな袋を取り出しそっと透の手に載せてくる。
「なんだ?」
「大したものじゃないんだけどさ……」
言われるがままに包みを解いてみると、中から現れたのはシンプルな写真立てだった。
その中には透を中心にして今年のバスケ部全員で撮った写真が収められている。
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