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卒業 2
「ハハッ、そう……だったかな? もう昔の話だよ。今更どうこうしようなんて思ってないし」
自分で言っていて胸がズキンと痛んだ。
雪哉は最後のチャンスだと言いたいのだろうが、あんな酷い事を言っておいて今更どんな顔で和樹に会えと言うのだろうか。
和樹には自分みたいな憶病で頭の固い男の事は忘れて、新しい恋をして、普通の幸せを手に入れて欲しい。
そう言えば、逢沢とはどうなっただろうか? 嫌でも目立つ彼の事だから、だれかと付き合ったりしたら職員室でも噂になりそうなものだが浮いた話は聞かないから、上手くいかなかったのかもしれない。
「僕も……ずっと素直になれなくって、本当の想いは伝えられないままだったから、先生の気持ちは少しはわかるつもりです。だけど、本当にそれでいいんですか? 和樹と会えるの今日が最後になるかもしれないのに……」
「……いいんだ。 萩原、悪いな。大人の事情ってもんがあるんだよ」
「……ッ! なんですか……それ。だったら、最初っから僕の大事な友人を巻き込まないで欲しかったっ! 大人の事情って……そんな言葉で片付けられるような問題じゃないでしょう!?」
悲痛な叫びが胸に突き刺さる。
「ごめんな。俺が教師だから……。アイツの気持ちに応えてやることは出来ないんだ」
「……先生がそんなヘタレだったなんて、知りませんでした……」
透の意思が変わらないのだと悟った雪哉はそれ以上言葉を噤むのは止めた。悔しそうに歯噛みして俯き部室から出ようとする。
「あ、そうだ。萩原さぁ……悪いけど和樹に、合格おめでとうって伝えといてくれないかな?」
「嫌ですよ。その位……自分で伝えればいいじゃないですか。 和樹が聞きたいのは僕からの言葉じゃなくて、先生から言葉だと思いますよ?」
「ハハッ。……ま、そう……だよな」
そう言われてしまえば返す言葉がない。だが、これ以上和樹と顔を合わせるのは辛すぎるのだ。それに、こんな酷い男の事など早く忘れてしまって欲しいと思う。
和樹のこれからの未来を想うなら尚更にだ。
雪哉が出て行った後、静まり返った室内で、透はもう何度目になるのかもわからない溜息を溢した。
今日で最後――。卒業式が終わったら、もう二度と会えなくなるかもしれない。
会いたくないわけではない。むしろ逢いたくて堪らない。
でもやっぱり駄目だ。自分は教師で彼は生徒なのだから、この関係を続けるわけにはいかない……。
透は、自分に言い聞かせるように何度も同じ台詞を心の中で呟いた。
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