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それから数年が経ち、4度目の春が来た。和樹とはあの日以来会っておらず、連絡を取り合うこともなかった。 あれだけ好きだと言ってくれた相手に対して薄情だと思うが、これで良かったのだと思い込もうとする。 もう過去の事だ。きっと、和樹だってとっくに吹っ切れているに違いない。 そう思いながらも、時々スマホをチェックしてしまう自分が酷く女々しい。 アキラと同棲している拓海は時々和樹や雪哉とナオミの店に飲みに出かける事があるようだが、透に気を遣っているのか彼の話題が出ることは殆どない。 親友に気を遣わせてしまっている事がわかっているだけに、それが余計に辛い。 いくらもう大丈夫だと口で言ってみても、自分の中の和樹の存在が消えることはなく、色褪せない思い出だけがどんどんと積み重なっていく。 そんなある日。 「え? 俺が教育実習生の指導員。ですか?」 校長室に呼び出された透は、突然の話に戸惑いの声をあげた。 「そうそう。実は、うちの学校にも実習生が来る事になったんだけどね。君に担当してもらうことになったんだ」 「えっと……どうして俺なんかが……。アキラの方が適任なのでは……」 勿論やれと言われたら、嫌とは言わない。だが、こう言う事は人当たりも顔もいいアキラの方が向いている気がする。 「私も最初は加治君にお願いしようと思っていたんだが、加治君がどうしても君に回して欲しいと言うんだ」 「はぁ……」 一体、どういう事だろう? まさか、面倒くさいからうまく逃げたのか?  いや、あいつに限ってそれは無いだろう。 アイツだって一応教師の端くれだ。そんな責任を押し付けるような事はしない筈。 じゃぁ一体なぜ――?

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