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春 4

「しっかし、お前がまさか教師目指してるなんて、世も末だな」 「ちょっ、酷くね!?」 夕陽が差し込みうっすらと影になっている和樹の顔をじっと見つめながら、未だ信じられない気持ちで透が呟くと和樹が膨れっ面をして抗議してくる。 会議も無事に終わり誰も居なくなった教室で二人きり。この状況に何となく気恥ずかしさを感じつつ透は言葉を続けた。 「いや、だって……お前、勉強嫌いだっただろ? 2年までは成績も普通か、赤点ギリだったくせに。B大受かってたのは知ってたけどまさか選んだのが教育学部って」 「……マッスーが居たからだよ」 「は?」 「俺、それまで自分が将来何になりたいかなんて考えたことなかった。雪哉みたいなすっごい才能があるわけでもないし、小さい頃から憧れてた職業とかも別に無かったし……。でも、高校入って、マッスーの側で3年間過ごして、一緒にウインターカップ目指して頑張ったり、色んな経験していくうちに思ったんだ。俺、この人と一緒に仕事がしてみたいなぁって」 「……」 真っ直ぐに自分を見据えた瞳に射抜かれ、鼓動が高鳴っていく。嬉しいような泣きたいような複雑な思いが入り混じって言葉が出てこない。 「勿論、受かるなんて思っても無かったし、邪な考えだってわかってた。でも、マッスー達先生が何を考えて俺達と接してるのか知りたかったし、卒業してからもずっとマッスーと一緒に居られる仕事ってなんだろう? って考えてたらこの道しかないって気付いて。だから、両親説得してカテキョ付けて貰って、必死に受験勉強したんだ。俺、めっちゃ頑張ってただろ?」 悪戯っぽく笑う和樹が何だか眩しくて、透は目を細めた。

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