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春7
「なにこんなとこでサカろうとしてんだ馬鹿!」
「えー、だって我慢できないし」
「なに開き直ってんだよ! お前の理性のネジ外れすぎだろっ!?」
「せっかく両思いになれたのに……」
「……っ、だ、だから……っ、別に……嫌とかそう言うんじゃなくて……。時と場所を考えろって」
顔を真っ赤にしてモゴモゴと言い淀んでいると、和樹が小さく噴き出した。そのままぎゅっと抱き締められ耳元で囁かれる。
それは甘く蕩けるような声で――。
「じゃぁさ……俺の家で続き、シよ?」
「……~っ!!」
一瞬の間を置いて意味を理解した透の顔がじわじわと赤く染まっていく。
「フハッ、マッスー、可愛い」
「か、可愛くないだろ。眼科行った方がいいんじゃないか!?」
「可愛いよ。すっげぇ、可愛い。めちゃくちゃにしたい」
熱い吐息と共に耳に吹き込まれた言葉に、ゾクッと背筋が粟立つ。
「な、なに言って……」
「いいじゃん。やっと両思いになったんだから。もう遠慮しないし、俺以外の奴に絶対触らせないし、誰にも渡さない」
「……お前は前から遠慮なんてしてなかったじゃないか」
「あれ? そうだったっけ?」
ニヤリと悪戯っぽい笑みを浮かべながらとぼける和樹を見て思わずため息が洩れる。
「たく……。なんかお前と話してるとほんっと調子狂う……。いいよ、行こうぜお前の家。――俺も、我慢できそうに無いし……」
最後の方はほとんど聞き取れない程小さな呟きだった。
「えっ? マッスー、今なんて?」
「っ! な、何でもないっ!! 支度してくるから校門前で待ってろっ!!」
恥ずかしいのと照れ臭いので和樹を突き飛ばすようにして教室から飛び出す。後ろで和樹の笑い声が聞こえる気がしたが無視だ。今は振り返れない。きっと情けない顔をしているに違いないから。
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