210 / 226

新しい生活2

「……お前……昨夜も散々ヤったのに……どうすんだよソレ」 呆れたように呟く透に、和樹はにっこりと笑う。 「これは不可抗力ってことで」 「はぁ!?」 「ね、お願い。一回だけ。これで頑張れるから。ね?」 「ね?じゃねーよ。可愛く言っても無理だからな! 緊張が解けたんなら早く行くぞ」 ぐいっと和樹を押し退けると、玄関に向かう。 「えぇ~ちょっとくらいいいじゃん」 「お前のちょっとは、全然ちょっとじゃないだろ」 ぶぅと不満げに漏らしながらも、和樹は大人しく後に続いた。 ドアを開ければ外は快晴で、澄んだ青空が広がっている。 「……ま、自然体でやればいいさ。お前なら出来る」 晴れやかな空を眺めながら透は言った。 「頑張ったらご褒美くれる?」 「はぁ? たく……お前はまたそう言う……」 何をふざけた事を言っているのかと言おうとして、ハッと口を噤んだ。 和樹の表情はやはり硬い。 なんだかんだ言ってもまだ大学生だ。初めて生徒達を相手に自分で授業を組み立てやっていく。 いくら和樹でも緊張しない筈はなかった。 そう言えば、自分も初めての時はガッチガチだったなぁ。なんて昔に思いを馳せて、透は静かに目を伏せ和樹の腰をポンと叩いた。 「たく……いいよ。実習頑張ったら何でも言う事聞いてやる」 「本当!? じゃぁ、メイド服……」 「アホなお願いは全て拒否権を使わせてもらうからな!」 「えぇ~……」 そんなやり取りをして笑い合う。大丈夫、きっと和樹は上手くいく。 根拠はないが、不思議とそんな予感がしていた。

ともだちにシェアしよう!