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第3話 きみの初めては私のものだ
橋田が自分のスラックスのファスナーを下ろす。半ば反り返っていた自らのものを手で擦っている。
充分に勃ちあがると、橋田は満足気にしばらく撫でていた。
律はその様子を、無言で見つめていた。
これから貫かれるもののたくましさに、目が離せなかった。
橋田が律の膝裏をつかむ。
橋田が持ち上げやすいように、律が尻の位置をずらした。ふたりは目が合った。
橋田は不敵な笑みを浮かべていた。律の窄まりに、橋田が宛てがう。
先端がふれたと思ったら、ためらいなく橋田が入ってくる。
「ん、んーー……」
切っ先が中に入ったとき、律は体をくねらせた。指とは比べものにならない圧迫感がある。
下腹部が疼くように痛い。
「律先生……私を見て」
「は、い……あぁ……」
橋田は律の瞳を見つめている。
花を手折る瞬間を、目に焼きつけようとしているようだった。
罠にかかった蝶を、蜘蛛が牙を立て味わう。
その感触を楽しむように、橋田は律の表情を眺めながら、腰を進めてくる。
「あ……いた、い……」
あまりの痛みに、律は声を出した。
「あ……あぁ」
初めて、他人とひとつになれる。
初めて、男が中に入ってくる。
そう実感すると、興奮で体が震えてしまう。
貫かれるというのは、思っていた通り、苦しく、つらかった。受け入れようとするところは、とても狭かった。けれど、橋田は進んでくる。半ば強引に、律の中を押し開いていく。
「はぁ……あぁ……」
腹の中が、熱い橋田のものでいっぱいになった。圧迫感で、律は息を弾ませる。
合わさっているところを見たら、橋田のものはまだ根元まで入ってはいないようだ。橋田は、己の全てを律に埋めようとしているみたいだ。
ゆっくりと時間をかけて、律を犯していく。
まだ入りきらなかったがこれが限界と感じたのか、橋田は息を吐くと律の腰を抱え直した。
「あ、ん……」
挿入の角度が変わり、律は甘い声を放った。
「感じる? きみの中に、私が入ってます」
「はい……」
「はぁ、これが律先生の中か……ずっと味わいたかった……」
「あ、あ……」
橋田は律にきくことなく、腰を動かした。性急な動きに、律は戸惑った。でもそれだけ求めていたのだと思うとうれしくて、律は抵抗しなかった。
繰り返し中を擦られる。敏感になっている内壁に絶えず刺激を与えられる。
すぐに橋田の先走りがあふれたようだ。
それが潤滑剤となったのか、より強く、より激しく、橋田は更に思うままに律を抱いた。粘りのあるもので中をかき混ぜる音が部屋に響いた。
抱き合いながら、唇を合わせた。律は言われなくても唇を開ける。橋田は律の口内でも、好きなように動いた。
唇と唇。そして、下のひとつになっているところ。橋田とつながっているところが、火がついたように熱く疼く。
未経験の律の体は、あっという間に快楽に溺れていく。痛みはあるが、上回るほどの気持ちよさに、律は喘いだ。
「あ、ん……あぁ、あ……」
律は橋田にしがみついて、体が弓なりになる。
橋田が与えてくれる愛情を受け止めきれない。高さがわからない快楽の山をどこまでも駆け上がる怖さを感じていた。
「はぁ……すごいな……きみの中は……私に絡みついて、きつく搾りあげる……」
「ん、ん……あ、あぁ、あ」
「はぁ、あぁ、いい……いい……」
橋田が恍惚とした表情を浮かべている。
「律……出すぞ」
「え……ああ、ああぁ……」
律の中に熱いものが広がる。中出しされたと気づいた。
「ん……いや……」
男だから孕まないのはわかっているのに、怖くなって腰を引こうとした。が、橋田ががっちりとつかんでいる。
大きく息を吐きながら、橋田は腰を押しつけてくる。
橋田が放ったもののあまりの量に、律の下腹が震えた。
律はただ受け止めることしかできなかった。
「……これで、きみの初めては私のものだ……」
目を閉じて、律は頷いた。
橋田は律にキスをして、頭を撫でる。
律はふわふわした気分だった。
初めての経験はすぐに終わるけど、忘れられない。
酒の席で、大学時代の友人が言っていた。その通りだと思った。橋田が与えてくれた熱が体の奥にずっと残っている。
律は橋田の腕のなかでおとなしくしていた。体が重くて、動かせない。橋田に抱きしめられていると、心地よくて眠くなる。
そんな律の様子を、橋田は目を細めて見つめている。律の耳元に口を寄せる。
そして、律にしか聞こえないように囁いた。
「律。これからは、私がそばにいるから」
律は驚いて目を見開く。
そんなことを言われるとは思わなかったからだ。
うれしかった。こんなにも愛されていることに気づけたから。
「返事は急がなくていい」
「……え?」
橋田は苦笑いを浮かべた。
「抱かれて情が湧くことってあるんですよ。初めて気持ちよくなった興奮と恋心を勘違いして……」
「じゃあ、どうして橋田さんは僕を抱いたんですか?」
「こう言ったら、身も蓋もないんだが……」
律の鎖骨に橋田は唇を押し当てた。
「きみに会う度に、抱きたい、抱きたいと思った。私に抱かれたら、きみはどう感じるかずっと知りたかった。たった一度でもいいと思った、きみの肌に指を滑らすのは」
橋田の手が律の肌を撫でる。
愛された感触を思い出して、律は体を震わせた。橋田が息を吐いた。
「こんなに、いいとは思わなかった。病みつきになるじゃないか……どうしてくれるんだよ……」
最後の言葉は、独り言のように小さかった。しかし、律は聞き逃さなかった。
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