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第3話 兄の友人

 その男性は兄の中学生時代の友人だった。貧乏な僕の家とは全然違うけっこう裕福な暮らしをしているそうだが、なぜか兄とは気があったようだ。自分は有名高校に通っているのだが、兄が働き出した今でも連絡を取り合っていたようだ。  そして、今日、兄が早めに家を出たのはこの友人に久々に会うためだったそうだ。バカでかい中学校の卒業アルバムを持って、喫茶店で昔話をしてけっこう盛り上がったため、本当はそれを戻しに、一旦、家に帰るつもりだったのだが、職場へ行く時間に間に合いそうもなかった。  そのため、その友人が代わりに家に持って行ってやることにしたそうだ。兄はその友人に鍵を渡して、呼び鈴は母が嫌がるので鳴らさないようにそっと入って、玄関のすぐ隣にある部屋に弟がいるから渡してくれと頼んだそうだ。  それで、その友人は部屋でミニスカートを履いている僕を見てびっくりとしている。しばらく僕の顔を見て言った。 「あれ、確かまことさんって名前の弟さんに卒業アルバムと鍵を渡してくれって頼まれてたんだけど、君、女の子か。あいつに妹さんっていたっけ」  ちなみに僕の名前は漢字で真って書くんだ。けど、女性にもまことさんはいるよね。僕はオナニーしている時は女性のまことになるんだ。いや、どっちかというと、いつも女性のまことさんだ。漢字だと真琴って設定にしてある。しかし、兄の友人は今しがた、白い体液を出してしまった僕を見て、また周辺のティッシュとか床に落ちているので、すぐに事情がわかったみたい。 「お邪魔して悪かったね。じゃあ、俺、帰るから」  その人は、兄から渡された卒業アルバムと鍵を僕に渡すとそそくさと帰って行った。僕は非常に恥ずかしい思いをしてしまったんだけど、それとは別に胸がドキドキしたんだ。その兄の友人はすごい二枚目だった。背も高い。それに、優しそうな感じで完全に僕のタイプの男性だった。  僕は一瞬で恋をしてしまった。  一目惚れってやつだ。今までも、男の子が好きになったことはあるけど、なんとなくいいなあって思っていただけで、胸が一瞬でドキドキするような感覚はこの時が初めてだった。  その日から、僕はその兄の友人の事が頭から離れなくなった。オナニーの対象も兄の友人になった。それまでは、自分が女の子になっても、犯してくる男性は漠然としていたのだが、兄の友人に会って以来、はっきりと僕を犯すのはあの人になった。  そして、やさしく抱きしめてくれるのもあの人。僕は完全に兄の友人の虜になった。僕はあの人の性奴隷になりたい。あの人をご主人様と呼びたい。ご主人様のペニスを口で咥えたい。精液を飲みたい。後ろから犯してほしい、いろんな恥ずかしい思いをさせられたい、虐められたい、辱めを受けたい、そして抱きしめてほしい。  僕はあの人をご主人様と呼ぶことにした。  兄が仕事を終えて家に帰ってきたとき、僕は卒業アルバムと鍵を渡しながら、ご主人様の名前を教えてもらった。さりげなくご主人様の人柄も聞いてみた。 「あいつはいい奴だよ、こんな重たいアルバムをわざわざ俺の家に持って行ってくれたんだからさ。まあ、人が好過ぎて頼まれると断れない奴なんだけどね」  やっぱりやさしい男性だったんだ。本当は恋人がいるかどうかも聞きたかったのだが、変に思われると困るので聞けなかった。僕はこっそり兄の机の中を探す。今時、紙の年賀状が出てきた。さすが無骨な僕の兄。それでご主人様の住所を確認した。  僕は、ご主人様に告白したくなった。しかし、気持ち悪がられたらどうしよう。そもそも、普通の男性は僕みたいな男の娘なんかに興味はもたないだろう。それでも、ご主人様の顔が見たい。とにかく顔を見られるだけでもいい。僕はご主人様の顔が見られるだけでいいんだ。  僕はご主人様の住んでいるマンションに行った。格好は普通の黒いTシャツに黒いジーンズ姿。兄には散歩と言ってある。僕の安アパートからそんなに遠くない場所にある高級マンションだ。そして、ご主人様が帰って来るのを待つ。ご主人様の姿が見えた。このまま走って行って抱き着きたい。けど、そんなことをして、嫌がられたらどうしようと思うと足がすくむ。  結局、ただ、遠くからご主人様の顔を見るだけでその日は終わった。次の日も、そのまた次の日もご主人様の顔を見に行くだけ。  何も出来ずに家に帰っては、ご主人様の顔を思い浮かべてオナニーをするだけの日々。どうにかして、ご主人様に自分の思いを伝えたいと悩むが、こんなことは兄にも相談できない。所詮、男の娘に興味を持つ男性なんてごく一部だろう。  あきらめようかと思いつつ、またご主人様のマンション前に行った。ご主人様が学校から帰ってきた。すると、目が合った。恥ずかしくなって、思わず走ってその場から逃げてしまった。マンションからちょっと離れた小道で休む。やっぱり、無理だろうと帰ろうとしたら、声をかけらた。振り向くとご主人様がいた。にこやかに笑っている。 「君、まことさんでしょ。最近、よくこのマンションの前にいるけど、どうしたの」  ご主人様は、僕が居ることにとっくの昔に気付いてたのか。僕は決心した。自分の思いを伝えよう。いつまでも悶々としていても仕方がない。気持ち悪がられたっていい。とにかく自分の思いを伝えたい。 「あの、好きです! 初めて会った時から」  僕はストレートに告白して、ご主人様に抱き着いた。突き飛ばされると思った。いきなり男が抱き着いてきたら普通の男性は嫌だろう。しかし、ご主人様は違った。抱き着いた僕にちょっとびっくりしていたが、その後、やさしく抱きしめてくれる。そして、黙った。  しばらくして、僕に言った。 「俺も君の事が好きだよ、初めて会った時から」

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