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第11話

※イノリ視点 翌日、店を開けた。 機械的に同じ作業を繰り返し、客が落ち着いたらボーッと何処を見るでもなく無心になる。 今日はその繰り返しだ。 …あんな夢、見たからかな…何も考えたくない。 チリンと来客の知らせを聞きそちらを見て、目を見開く。 嬉しい筈なのに、密かに今日は会いたくなかったと思ってしまった。 彼は悪くないのに…自分が最低な奴に思えた。 「こんにちは」 その人は俺に眩しいくらいの笑みを向けていた。 …やっぱり似ている、今は心臓に悪い。 けどイノリ…瞬の心にはハイドさんしかいないから感情まで一緒にはならない。 俺にとってハイドさんヘの想いが消える事が何よりも怖かった。 今日はシヴァくんは一人みたいでいつも一緒の友人がいないからかそわそわしていた。 彼はとても優しい人だから少し疲れたところを見せたら心配してしまう。 平常心を装おうと営業スマイルで迎える。 「いらっしゃいませ」 「…っ」 俺の顔が変だったのか、シヴァくんは顔を赤くして目を逸らす。 今朝目が腫れてないかちゃんと確認したのに泣き跡が付いていたのだろうか。 また夢で泣いてしまったから心配だ。 今すぐ洗面所に駆け込み顔を確認したいが客が来ているからそれも出来ない。 少し落ち着いたと思ったから店を開けたのにと後悔する。 顔を袖で拭いているとシヴァくんはこちらの顔を見ず話しかけてくれた。 「昨日、休んでたから心配だったんだけど…大丈夫?元気ない?」 「…え!?へ、平気ですよ!」 まさか出会って2回目なのにもう見破られて焦った。 俺の空元気にも気付いたのかこちらを見たシヴァくんは悲しげな顔をする。 結局、心配掛けてしまった。 お客さんにこんなに心配掛けちゃダメだよね。 俺は厨房に急ぎ数分で戻ってきた。 シヴァくんは首を傾げて俺の行動を追っていた。 「あ、あの…これ…新作のお菓子なんですが、味見して…くれたら嬉しいです」 「…いいの?」 俺は変な空気になってしまったから話題を逸らそうとシヴァくんにナッツみたいな木の実を練り込んだクッキーが入ったバスケットを見せる。 シヴァくんの目がキラキラと輝いていた。 …心配掛けてしまったお礼になるか分からないけど、シヴァくんにクッキーを一つ手渡す。 食べるシヴァくんをジッと見つめていると目が合い、また目を逸らされた。 …もしかして、見すぎて気持ち悪い奴だと思われてるんじゃ… だとしたらショックだ。 「ん、美味しい…今日はこれを貰おうかな、いくら?」 「あ、まだ値段決めてなくて…それじゃあ」

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