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第16話

「そこまでだ!」 ロミオくんが大きく腕を振り上げたところで第三者の声が地下に響いた。 俺もロミオくんも驚き、第三者の声がした入り口に目を向ける。 そこには暗い室内に眩しいほどの白い軍服を着た騎士団数人がいた。 残りの数人が「団長!いました!」と呼びに行っている。 そこの先頭にいる騎士を俺は知っていた。 先頭の騎士は俺の知っている彼より少し大人びて見えて剣を抜きロミオくんに向けた。 「言い逃れは出来ない、大人しくしろ」 「…俺と瞬の邪魔する奴は皆死ねばいい」 「………瞬?」 そこでふとロミオくんの側にいる俺に気付いた。 しかし目を向けたのは一瞬ですぐにロミオくんに向き直り後ろの騎士達に指示を出して一斉にロミオくんに襲いかかり取り押さえた。 ロミオくんは床に頭を押さえつけられて唸っていた。 彼は軽蔑した顔でロミオくんを見下していた。 彼はロミオくんがいなくなった後にやってきた騎士団員だからロミオくんの事は知らない。 ただ瞬を知ってるから積極的にロミオくんを捕まえる事にハイドさんとリチャードさんの次に必死で探していた。 「感謝しなよ、ハイド様や副団長だったらお前殺されてるかも」 「…瞬は、俺の瞬は…」 「死体まで掘り起こして変な薬入れたとか、本当気持ち悪い…」 瞬の死体を見て顔を歪める。 最後は吐き捨てるように言い彼は俺の方に行った。 俺は助かった安心で放心状態だったから誰かが近付いてきていた事に気付かなかった。 彼は俺を見て困惑した顔をした。 ロミオくんに隙が出来るまで待機していたからだいたいは二人の内容を聞いている。 それはとても信じられない話だった。 「…ねぇ、アンタ…あの瞬じゃないでしょ?死んだ人間が蘇るわけないし」 「えっ、あ…イブく…」 突然声を掛けられて放心状態から戻り、つい気が緩み名前を言うとイブくんは「マジ?」と小さく呟いた。 イブくんは俺を知らないしハイドさんのような有名人でなきゃ一騎士団員の名前なんて知られない。 それにイブくんをそう呼ぶのは瞬しか居なかった。 俺は瞬と出会った人達となるべく関わりたくなかったから、もう遅いと分かりながらも首を横に振った。 その否定が余計本物だと思わせる事を俺は知っているのか…いや、瞬なら知らないだろうと呆れる。 そして慌ただしく階段を降りる音が聞こえて少々乱暴に扉が開いた。 「見つかったのか!?」 先に入ったのはリチャードさんで後からハイドさんが入ってきた。 声を聞きたかった、その顔を一目見たかった筈なのに今は会うのが怖い。 向こうは俺を知らないからイブくんの時のように余計な事を言わなければ大丈夫だろう…でも言わなくても感情は自分ではどうする事も出来ない。 怖い、もしバレて自分のせいでハイドさんの幸せを壊してしまったら… 俺は頭を抱えて怯えていたら、影が俺と重なった。 …前だったら考えられない、イブくんがハイドさん達から俺を見えないように隠してくれていた。 怯えていたのが分かったのかは分からないが、俺にとってありがたかった。 「イブ、犯人は?」 「取り押さえました」 ハイドさんがそれを聞きロミオくんに近付いた。 リチャードさんはロミオくんの集めたグッズを見て引いていた。 ロミオくんは顔の表情をなくしハイドさんを睨んでいた。 ハイドさんはロミオくんを無表情で見つめて騎士達に退くように指示した。 騎士達はあっさりとロミオくんを解放して、ロミオくんが起き上がろうとしたら先にハイドさんがロミオくんのワイシャツの襟を掴み壁に叩きつけた。 その振動は地下の部屋に響いた。 ロミオくんは痛みに顔を歪めながら余裕そうにハイドさんを見る。 「なんだ、よ…そんなに瞬が俺に取られたのか悔しいか?」 「…瞬は誰のものでもない、瞬のものだ」 ハイドは襟を掴んでいた手を首に向けた。 イノリからはハイドが何をしてるか分からずロミオの苦しげな声しか聞こえない。 イブくんが後ろを向くと俺と目が合った。 不安そうに揺れる俺の瞳にイブくんは面倒そうに舌打ちした。 そりゃあこんな薄暗いところに閉じ込められて視界はイブくんの壁で塞がれてたら生々しい声だけが聞こえて怖いだろう。 しかしいくら瞬が嫌いでもトラウマを植え付けるほど嫌ってはいないからこんなシーン見ない方がいい。 きっとハイドさんもそれを望んでいる。 「耳、塞ぎなよ…気絶されたら僕が迷惑だから」 イブくんに冷たくそう言われ、耳を両手で塞ぐ。 すると音が遮断され…今なにが起こっているのか完全に分からなくなった。 ハイドはロミオを床に投げ飛ばした。 逃げようとするロミオにいつの間にか抜いていた剣を足に突き刺し逃げられないようにする。 大声で悲鳴を上げたいほどの激痛だが強がりまだ余裕そうな顔をする。 少しでもハイドに敗北感を味わわせたかったがハイドは無表情で何を考えてるのか分からなかった。 「お前、に…ぐぎぃっ!俺のぉっ、気持ちなんか分からない!!」 「分かるわけないだろ、自分の欲望を満たすためだけに動き瞬自身を考えられないお前の気持ちなんか」 剣の抜き差しを繰り返していて血溜まりが出来た床を見て剣を引き抜き、ロミオの首元に向けた。 ハイドの中でロミオを生かす選択肢は元々なくて、ただ殺しただけじゃ怒りが治らないと痛めつけていた。 瞬が受けた苦痛の倍返そうと考えていた。 他の騎士達はハイドの行動に怯えていたが、昔のハイドを知るリチャードとイブだけは冷静に見ていた。 ハイドは瞬をとても愛し大事にしてきた。 だからこれは恋人を汚された男として当然の復讐だろう。 「…瞬はもういないんだ、諦めていたらお前は死なずに済んでいたのにな」 「諦める?…何故だ?」

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