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第17話

同じ人を好きになったもの同士、同情なんかしないが一雫の情けで言葉を掛けるとロミオは何故か心底不思議そうにそう言う。 最初はハイドも諦められてない事を見破られてお前が言うなという意味かと思ったがどうやら違うようだった。 ロミオは愉快そうに笑った。 その笑いが心底不快に思えた。 この男は何を知ってるというのか。 なにか聞き出した方がいいと少し冷静になった。 「目の前に瞬がいるのに諦めるバカが何処にいる!?俺は絶対に諦めない!瞬が再び死んだ時のために地獄で待っている!!そしたら今度こそ」 ロミオが言い終わる前に自ら剣を首元に近付け自殺した。 血溜まりが大きく広がるのをジッと見ていた。 聞き出す事は出来なかった。 ただの妄言の可能性があると思うとロミオの死を惜しいとは思わない。 剣を振り血を払ったが、汚れてしまったから鞘に戻す気にはなれず地下に置いてあった布を引っ張り剣を包む。 もうこの場所には用はないとリチャードを見た。 「行くぞ」 「…あぁ」 リチャードはいつもハイドを止める役だった。 …いくら悪い奴でも元部下、なのに自分の足は縫い付けられたように動かなかった。 それがリチャードには不思議だった。 むしろ、ロミオに対して死ねばいいとさえ思った。 そんな自分が怖くなり、誤魔化すようにハイドに着いて行った。 ハイドさんとリチャードさんが去り、数人の騎士はロミオくんの死体と瞬の棺を運び出す。 そして全員が去った時にイブくんに手錠と足を縛るロープを切ってもらい、先に歩き出したから俺も着いて行く。 安心したからか気が緩みフラフラと歩く。 「…ちゃんと歩きなよ、それともあの変態になにか盛られた?」 「ううん、ありがとう…」 「別にアンタのためじゃないから、ハイド様のためなんだから」 そう冷たくイブくんは言うが何処か寂しそうな感じがする声だった。 イブくんがなにか思い悩む事があるのかと思ったが聞ける空気じゃなく、大人しくしていると突然明るい場所に出て目を瞑る。 一階に来たみたいで普通の部屋の明かりも暗い部屋にいた俺にとって眩しかった。 しばらくすると目が明かりに慣れてゆっくりと開ける。 ロミオくんは金持ちだったのだろうか、豪華な客間が目の前に広がっていた。 まさかあの地下がロミオくんの家の地下だとは思わず驚いた。 イブくんは壁に寄りかかり俺を見ていた。 「アンタ本当に瞬なわけ?」 「…お、俺の名前はイノリです」 「そう、なんか隠す事情があるんだ」 イブくんはなにかを察してそれ以上何も言わなかった。 俺が瞬だと、ハイドさんが幸せになれない…結婚の邪魔をしてしまうから隠しているだけ…だからハイドさんの耳に瞬は生きていると入らないように瞬を知る人達には関わりたくなかった。 ロミオくんの件も瞬を助けに来たわけではなく、ただの仕事だろう。 …今回の事で二人にもバレてしまったから今度はちゃんと気を引き締めようと考えていた。 イブくんにも言わなきゃならない、ハイドさんに知られる前に… 今はどうか知らないがイブくんはハイドさんとは直接の面識はほとんどなかった。 リチャードさんの直属の部下でリチャードさんを通してハイドさんと会うぐらいだった。 リチャードさんに知られると幼馴染みで親友だから必ずハイドさんにも知られる、だからイブくんでも安心出来なかった。 誤魔化しても無駄なら覚悟を決めてイブくんを見た。 巻き込んでごめんなさい、でもたった一つのお願いを聞いてくれたらもうイブくんの前には現れないから…だから… 「イブくん、誰にも言わないで…特にハイドさんに…お願い」 「…アンタはそれでいいの?まだハイド様が好きなんじゃないの?」 「………」 好き、好きだよ…大声で叫びたいほど愛している。 けど、自分の想いだけ押し付けたってハイドさんが困るだけだと思っている。 …だから俺は一人でハイドさんを想い続ける、いつか幸せな貴方の姿を祝福出来るその時まで… イノリのなにか決意した顔を見て、イブは罪悪感が芽生えた。 もしかしたら自分がハイドの結婚を瞬に知らせたから死んだのではないかと… イブの言葉だけを信じるとは思えないが、あの時のイブはハイドに裏切られた気持ちでショックで…何も知らず楽しそうにハイドへの贈り物を作る瞬にイライラして八つ当たりのように言った。 瞬が死んだ時、ハイドが婚約破棄をしにヴァイデル国に向かっていた事を聞きずっと後悔していた。 ……ハイドの愛は本物だったと… 彼…イノリはハイドにもう会う気はないみたいだが、ハイドの今の気持ちを伝えても良いのではないかと思っていた。 「あのさ、ハイド様は…」 言おうとしたところで誰かの足音が近付き再びイブは背中にイノリを隠した。 若干俺の方が身長高いからしゃがむように言われて小さく縮こまる。 昔は同じくらいだったが、この身体の持ち主がやや大きいのだろう。 自分の身体じゃない筈なのに、日に日に違和感なく馴染んでいく気がした。 この身体の持ち主は本当に実在しているのか。 客間に入ってきたのは瞬の棺を運んでいた一人の騎士だった。 「こちらは終わりました!」 「分かった、すぐに行く」 騎士が出て行き俺はイブくんの後ろから出る。 俺の知るイブくんは新人だった。 あの騎士はイブくんの部下なのだろうか。 身長は小さいが、大人びて見える。 新人の頃のイブくんを知ってるからかなんか成長を見守るお母さんのような気分で尋ねる。 とても優しい気持ちになった。 「イブくん出世したの?」 「…一年は長かったんだよ、もうアンタの知る騎士団は何処にもない」 イブくんはそう言い客間を出るから慌てて俺も出た。 確かにハイドさんも変わったように思える。 俺の記憶はずっと眠っていたから死ぬ前で止まっていた。 自分で歯車を回さなくてはすぐに皆に置いていかれるような気がして怖かった。 …俺だけが、何も成長していない。

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