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第18話
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ロミオくんの家を出て俺の家まで送ってもらった。
お互い店に着くまで一言も喋らず沈黙が続いた。
店の前に着くと送ってくれたイブくんに頭を下げた。
「今日はありがとうございました」
「お礼ならハイド様に…って言えないか」
再会して短い間だったが初めて少しだけイブくんが笑った。
俺もつられて微笑むとイブくんは俺の店を眺めていた。
イブくんはこの店を見るの初めてだろうか、あまり目立たない場所にあるからだろうか。
この店は口コミで広まっただけだから知らない人は知らないだろう。
俺と瞬のお菓子を食べてもらいたいという夢の塊の店だ。
イブくんはなにか思い出すように俺を見つめていた。
「…まだ、お菓子作ってるの?」
「うん」
「そう………たまになら来てやってもいいよ」
イブくんはムスッとした顔でそう小さく呟いた。
耳が真っ赤で俺がニコニコしていると更に不機嫌になった。
また会ってくれる、それだけでとても嬉しかった。
俺が思うほど嫌われていないと思ってもいいのだろうか。
城に向かって去っていくイブくんを見送り店の中に入る。
短時間しか経ってない筈なのに酷く疲れてしまった。
今なら布団に寝転がっただけで熟睡出来そうだ。
急いで開けっ放しにしていた店を閉めて家のドアを開けた。
なくなった物はなく幸い泥棒は来てなくて良かった。
寝室に向かい、布団を敷いて目を瞑るとすぐに眠りについた。
熟睡してしまったから夢は見ないだろうと思っていたが、夢を見た。
昔の幸せだった美しい日々の夢が写し出される。
昨日は悲しい夢を見たからか嬉しくて楽しかった。
それだけだったらきっと目覚めがとても良かったのに…
いきなり目の前が真っ赤な色で塗りつぶされていく。
赤い水溜りの真ん中に立つのは赤く濡れたハイドさん。
怪我をしたのかとハイドさんに近付くと腕を掴まれた。
夢のハイドさんはなにか言っていたが、ノイズに掻き消され聞こえなかった。
※ハイド視点
深夜の寝静まった城下町を窓に寄りかかり眺める。
あんなに賑やかだったのに身を潜めるように静かだ。
あの出来事が頭から離れず眠れそうもなかった。
もう終わった筈なのにグルグルと思考を掻き乱していく。
瞳を閉じると瞬を助け出した時の事を思い出す。
…ロミオが発したあの意味深な言葉が俺の心をざわつかせる。
『目の前に瞬がいるのに諦めるバカが何処にいる!?俺は絶対に諦めない!瞬が再び死んだ時のために地獄で待っている!!そしたら今度こそ』
ただ俺を煽っただけかと思ったが妙な引っかかりがあった。
目の前に瞬がいるというのはきっと墓から掘り起こした瞬の身体の事だろう。
瞬の身体をそこまで愛してるなんて、ロミオは相当ヤバイ奴なのかもしれない。
俺は身体だけを愛してるわけではない、瞬の魂に惹かれたんだ。
瞬の姿形が変わっても同じくらい愛せる自信がある。
…でも、魂がなくなっても瞬の身体を他人に好き勝手されるのは許せない…だから俺は怒った。
もうロミオはこの世にいないから怒ったって仕方ないが、黄泉の国があるなら黄泉の国で瞬を追いかけ回してるんじゃないかと不安になり、俺も今すぐ黄泉の国に行きたい気分だった。
そこでふともやもやと違和感が残っている事に気付いた。
瞬が黄泉の国にいないような事を言っていたような気がする。
…それに再び死ぬとはどういう意味だったんだ?
まるで瞬が蘇ったようにアイツは誇らしげに言っていた。
自分にとって都合が良すぎる解釈だなと苦笑いする。
「…瞬、俺が死んだら迎えにきてくれるか?」
瞬の部屋に居ても瞬はいないから返事はない…当然だ。
もう、俺の側にいないんだって実感してしまい深いため息を吐いた。
早く瞬に会いたい、カーニバルが終わってからヴァイデル国に行こうと思ったが早めに仕事を終わらせて向かおうと思った。
カーニバル…本当は瞬と行きたかった、瞬とずっと一緒だと信じて疑わなかったあの頃に戻りたい。
そしたらヴァイデル国に行くのを止めてずっと瞬と一緒にいて守るのに…
イズレイン国のカーニバルは恋愛の女神を祝う祭だ。
だから恋人達だけではなく、恋人を探す人達にとっても待ち遠しい祭だった。
数々のデートスポットがあり、城下町の噴水の前で告白すると永遠に結ばれるだとか、恋愛の女神が愛した氷の花を相手にあげると必ず両思いになるとかいろいろある。
…瞬と見て回りたいなとあの時の俺は誰も見た事がないほど緊張したりそわそわしていた。
瞬はカーニバルを知らないから当日まで黙っていようと話してない。
瞬がいない今は、興味が微動もなくなってしまった。
好きな奴がいないカーニバルなんて行っても仕方ない。
カーニバル開催まで後二週間に迫ってきていた。
騎士の仕事は見回りと揉め事の解決だけだからそう忙しくはない。
…敵と戦っている時が一番楽だ、気を紛らわせる事が出来るから…
幸せそうな恋人達を見ると悲しい気持ちになるから俺にとって今年の見回りはある意味地獄だ…去年は瞬が死んだばかりだったからリチャードが気を遣い見回りの仕事を休ませてもらっていた。
二回も騎士団長が休むわけにはいかず、今年は出るつもりだ。
だから気分を楽にしたいから早めに霊媒師に瞬と会わせてもらいたいとカーニバル前に行く事に決めた。
…ロミオの言葉に振り回されるのはシャクだが引っかかるし…
霊媒師が本物で瞬に会えればきっとこのもやもやはなくなる。
ギィッとドアが開く音がして鍵を掛け忘れたと今気付きそっちを見ると、リチャードが酒瓶とグラスを持ちやってきた。
「なんだ、寝てるのかと思ってた」
「…起きてると思ったからそれを持ってきたんだろ」
リチャードはニカッと笑い机にグラスと酒瓶を置く。
酒は強いし嫌いではないが、悲しみを紛らわそうと大量に飲んだりするから一人ではいかない…必ずストッパー(リチャード)がいる時だけにしている。
そんなリチャードも酒癖悪いからあまり行かない。
瞬がいた頃は二人で酒を楽しむ時間が一番だった。
瞬は果物酒が好きで、酒が弱いくせに俺のペースに合わせて飲むからすぐに酔っ払っていた…その時の瞬は可愛いかったが身体には悪いだろうと次から瞬には果物を搾っただけの飲み物を飲ませていた。
…今となってはもうそんな楽しかった出来事は見れないのだが…
リチャードによりグラスに注がれる酒を眺めてふと思った。
………そういえば今まで興味なかったが、他の騎士より遅れて帰ってきたイブの様子が少し変だったような…気のせいか?
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