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第19話

※イノリ視点 翌朝、とてもモヤモヤした気持ちで目を覚ました。 …ハイドさんのあんな夢を見た事もきっと関係しているだろう。 そして、昨日のロミオくんの事も少し考えていた。 ロミオくんの気持ちに早く気付いていれば、ちゃんと断っていたら彼にとって別の幸せがあったのではないかと… いくら考えたってもう何もかもが遅いけど俺のせいで一人の人の人生が変わったと思うとそう思わずにはいられない。 そしてもう一つ、気になってる事を1日寝てすっきりした脳が思い出した。 ロミオくんは誰に瞬が俺だと教えたのか、俺が瞬なんて知ってるのは本人だけなのに… 聞きたくてもロミオくんはいない、その事実が俺を不安にさせる。 ……ただ一つ、そうなんじゃないかという疑問があった。 誰かが俺…イノリを殺そうとしているのではないのか。 考え過ぎだったらいいけどと思いながら布団から出て片付ける。 ーーー 「おはよー!イノリさん」 「おはようシヴァくん」 あの事件から数日が経ち、店を開店させて少ししたらすっかり常連客になったシヴァくんがやって来た。 名前はこの前お互い教え合って、俺の方が年下なのに何故か今の呼び名で落ち着いてしまった。 シヴァくんにはよく新作お菓子の味見を頼んでいる。 一見絶賛しかしないように見えて、ちゃんと意見を言ってくれるから助かっている。 今日も新しいお菓子をシヴァくんに味見してもらおうと一口サイズにカットしたケーキの端を渡す。 シヴァくんは不思議そうに俺の顔とケーキを交互に見ていた。 「イノリさんこれは?」 「チーズケーキだよ、甘さ控えめだけど苦くはないから」 シヴァくんは苦い…つまりビターなお菓子が苦手で一度も口にした事がないと言っていた。 休憩の合間に角砂糖を食べるほどの甘党で、正直糖分の摂り過ぎが気になる。 最近だと俺のお菓子を食べて角砂糖は食べてないみたいでホッとしつつ、ほどほどにと言っておく。 苦くないほどに野菜も混ぜてみようかな?と真剣に考える。 チーズケーキをよく味わい食べて、飲み込んだ。 ドキドキしながらシヴァくんを見るとニコッと笑った。 「美味しいよ、けど俺はもっと甘いのがいいな」 シヴァくんには甘さ控えめのお菓子は好きじゃないみたいだ。 じゃあ今度はシヴァくんが好きな甘いお菓子の新作を考えよう。 ハイドさんはチーズケーキ喜んでくれるかな?と渡す勇気もないのに考える。 シヴァくんのお気に入りで砂糖を煮詰めた液体と混ぜて焼いたスポンジに冷たいアイスが乗ったカップケーキを指差した。 今日はこれを買いに来たようだ。 持ち帰ると溶けそうだと思っていたら「今日は非番だからここで食べるよ」と言うから会計を済ませてトレイにカップケーキとフォークとスプーンを乗せて食事スペースに座るシヴァくんの前まで持ってくる。 「あっ、トッピング出来る?」 「今日はチョコとベリー草があったかな」 「ベリー草って花の蜜だっけ?」 ベリー草は蜂蜜のような甘い蜜が取れる花で雨の日にしか花が咲かず、なかなか採取が難しいと言われているがこの間よろず屋のおじさんがたまたま雨の日に出かけて大量に仕入れたらしく俺は一度お菓子に使ってみたく買ってきた。 ベリー草はいろんなお菓子に使うからレパートリーが増える。 まだベリー草は沢山あるからシヴァくんにすすめるとシヴァくんもベリー草は初めてだからか目を輝かせて「じゃあそれで!」と言ったから急いで厨房に戻る。 棚に置いてあったベリー草がいっぱい入っている瓶を取る。 中から二本取り出して、使わない残りは棚に戻した。 すり潰し、蜜を出して小皿に入れてシヴァくんが待つ店内に戻る。 「はぁー、やっぱり暑い日は冷たくて甘いものだよねぇ」 「そうだね」 今日は客が少なくのんびりとした時間が流れる。 ベリー草の蜜が掛かったアイスをスプーンで掬い一口食べては幸せそうな顔をする。 まだ夏じゃないのに最近暑くてクーラーでも買おうかと迷っていた。 俺だけなら我慢できるがお客さんのために真剣に考える。 思い出したようにシヴァくんは俺を見た。 その瞳は期待に満ち溢れていた。 「イノリさんはカーニバルに行かないの?」 「え?カーニバル?」 「…まさか、知らないの?」 俺が首を傾げているとシヴァくんはとても驚いた顔をする。 この国の常識だったのかと一生懸命考えてみる。

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