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第20話

イズレイン帝国は世界の中心で大きな国だからいろんやお祭りが多くて正直一回しか行ってないからあまり覚えていない。 …そういえば一つだけ恋人のお祭りがあった気がした。 あの時はまだハイドさんと恋人同士じゃなかったから、いつか一緒に行きたいなと思っていた記憶がある。 ……今年はハイドさんは婚約者と行くのかなと気分が落ち込んだ。 それに気付いたシヴァくんは何に俺が落ち込んでるのか分からず首を傾げる。 「…イノリさん?」 「ご、ごめんね!何のカーニバル?」 俺はせっかくシヴァくんが美味しそうにお菓子を食べてくれてるのに空気を悪くさせちゃダメだと笑うが、無理してるのがバレバレなのかシヴァくんは苦笑いしていた。 それでも何も聞かないシヴァくんの優しさに救われたような気がした。 シヴァくんはどう説明しようか悩んで、諦めた顔をした。 知っていたら良かったんだけど、勉強不足で申し訳なく思った。 分かってたらシヴァくんの負担をなくせたのにと思う。 俺として一生を過ごすならいろいろ経験が大事だろう。 「説明下手でごめんね、簡単に言うと恋人同士のお祭りだよ」 その説明だけで、行きたかったあの祭りだと分かり頷いた。 …しかし参加はしないだろう、俺の好きな人とは絶対に行けないから… でも別の形では参加してみたいなと考えていた。 「ねぇシヴァくん、そのお祭りには出店とかあるかな?」 「出店?…あー、確かそんなのもあったかなぁ…俺、ずっと誰かと行きたいって思ってなかったからよく知らないんだ」 出店があれば俺も自分のお店を出したいと考えていた。 客として参加しないならせめて盛り上がるためになにかしたかった。 シヴァくんも知らないのかと残念に思っていたら遠慮がちにこちらをチラチラ見る視線に気付いた。 またなにか注文かな?と残りわずかになったカップケーキの皿を見つめる。 シヴァくんは俺を切なそうに見つめるだけだった。 なにか言いたげな瞳だったが、俺には全く分からなかった。 「えーっと、イノリさんは誰かと…その、予定とか」 「俺?ないない!恋人同士のお祭りには興味あるけど、今は一緒に行ってくれる人はいないし…それに、出店として参加したいなって思ってるんだ」 「出店、かぁ」 シヴァくんはなんか俺が過去形で話すのに疑問があったが深く聞かず、出店としての参加を決意している俺に落ち込んだ。 シヴァくん、もしかして誘おうとしてくれたのかな?…恋人の祭りとはいえ友人同士でも可笑しくないだろう。 でも俺にとってはやはり恋人の祭りだからハイドさん以外と行きたくはなかった。 ーシヴァは同僚にカーニバルの事を聞き密かに楽しみにしていた。 イノリと一緒に歩けたらとても楽しかっただろうな…と最後の一切れを口の中に放り込むー 恋人同士のお祭りなら、それっぽいお菓子がいいだろうなぁーって材料を考えていたら誰かが店にやって来た鈴の音が聞こえて入り口を見る。 シヴァくんはカップケーキを食べ終わり接客の邪魔になるといけないからと椅子から立ち上がる。 「いらっしゃいませ」 「………」 店にやって来たのはイブくんでムスッとした顔をしていた。 イブくんはこの店に入るのをかなり悩みためらいながらやっと入り、疲労していたのが少し店内から見えていた。 だけど声を掛けるとすぐに何処かに行ってしまいそうだったから待っていた。 なにかあったのか、でもいつも瞬と会うと不機嫌になっていたからいまいちイブくんの感情が分からない。 シヴァくんがトレイを持って立ち上がるから止めた。 置いてってくれたら自分で片付けるつもりだった。 「美味しいものを食べさせてもらったし、洗うよ」 「お客さんに頼めないよ、大丈夫だから」 俺に優しく言われると何も言えなくなるシヴァくんは申し訳なさそうにイブくんの横を通り抜けて店を後にした。 イブくんはシヴァくんが去った方をジッと見ていた。 イブくんはシヴァくんを知ってるのだろうか、同じ騎士だし当たり前か。 ハイドさんにとても似ているからイブくんも最初は驚いただろうな。 食器を片し、ずっと入り口を見つめるイブくんに声を掛ける。 「彼、似てるよね…ハイドさんに」 「…全然似てないよ」 イブくんは小さくそう呟きこちらに振り返った。 確かに正確とかは似てないけど、俺とイブくんの感じ方が違うのかなと心の中で納得した。 イブくんも瞬のカップケーキを美味しそうに食べていたから甘いものは好きなんだと分かるが、女の子が好みそうなデコレーションしているお菓子が特に好きみたいだ。 今、お客さんの女の子に一番人気のクマの形のモンブランをジッと見る。 栗を耳に見立てて作ったのが可愛いと評判だった。 可愛い顔のイブくんにとても似会うと思ったけど、男の子に言うのはさすがに失礼かな。 「それにする?」 「…どれでもいい」 そう言うイブくんだが、目線はクマのモンブランに釘付けだった。 どれでもいいならクマのモンブランでもいいよね。 お持ち帰り用の箱に入れてイブくんに渡し、お金を受け取る。 またイブくんに手作りお菓子を食べてもらえてとても嬉しかった。 イブくんは帰らず動かないからまだなにかほしいのかと思っていたが俺の方をジッと見ていた。 その真剣な眼差しに俺も緊張して背筋が伸びる。 「あのシヴァとか言う男にあまり近付かない方がいい、君のためだよ」 「……俺、の?」 イブくんはそれだけを捨て台詞のように言って店を出ていった。 残された俺はイブくんの言葉の意味が分からず呆然としていた。

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