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第2話

「(大体、映画は『邦画』に限るし、『たけのこの町』より『きのこの谷』だろう! そりゃ、『葉子』は一見、意地悪そうだけど、本当は優しい子じゃん!)」  昨日、三浦とした数々の言い合いを思い出すと、五島はやるせなくなった。それは勿論、自分の好きなものを分かってくれないこともあるが、三浦相手だと三浦の好きなものも分かってあげられないし、三浦のことを素直に受け入れられない。 「(はぁ、せめて六川と九岡ぐらい仲が良いというか、まともに話せたらな……)」  少し不思議な雰囲気のする六川に、他人は他人、自分は自分と線を引きつつも、意外と面倒見の良い九岡。大親友という感じではないかも知れないが、相性が良い2人で、よく笑い、よく話していた。 「(でも……)」  五島はそう思うと、ふいに九岡の表情を思い出した。 「(九岡って……)」  たまに九岡は複雑そうに六川を見ていることがある。  五島は詳しいことは何も知らないし、本人達に聞いたりしたことはないのだが、もしかしたら、単に仲が良いという間柄には収まっていないのかも知れない。 「(まぁ、それを言うなら、人間なんてそんなものかもな。シェアハウスで一つ屋根の下で生活してるなんて言っても、何でも知ってるかって言われたら、そうでもないし。知らないことの方が多いだろう)」  例えば、昔、六川は九岡に何か取り返しのつかないことをしていて、九岡は六川を憎んでいる。なんてことがあってもありえないことではない。 「(いや……我ながらミステリーの読み過ぎか。昨日、読んだブレイクリー・シュイラーの『密葬』は良かったけど)」  五島は今日の新年会を終えた後に、読もうと買ってきた新人のミステリー作家・水坂信慧の新刊に目をやると、シェアハウスに急いだ。 「(三浦は待たせても問題ないけど、六川や九岡に待ってもらうのは悪いしね)」  だが、この時の五島は知らなかった。  新年会を終えた後に水坂信慧の新刊の『鈍感な男』は開かれなかったこと。  そして、あの犬猿の仲の三浦にあんなことをさせてしまうこと、を。

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