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第11話

「あ、五島君はそろそろ準備した方が良いよ」 「三浦もここは良いから早く行けよ」  活気のある声に、普段、静かな高校の敷地とは思えない。 「(あれ?)」  妙な既視感が五島を襲う。  これから牛串を焼こうとしていた五島やたこを切っていた三浦に声をかけたのが五島達とは違う高校に通う筈の元クラスメート。いや、そもそも今の五島達は大学生の筈であると微妙に違和感があるが、既視感が現実だと五島に思わせる。 「はぁ」 「はぁ」  体育館の舞台裏で各々、エプロンから私服姿に着替えた五島と三浦は溜息をつく。私服……とは言っても、自身がいつも好んで着ている系統の服ではない。 「お前は良いよな。ラフめだし」  三浦が言うように、五島はラフなTシャツに、サルエルパンツを履いているのだが、何となく落ち着かないのだ。 「そっちこそかっちりめだから普段よりちゃんとして見えるよ」  五島に反して、三浦はトラッド系のスーツを着ていて、似合っていない訳ではないのだが、首元のネクタイがキツいらしい。 「おい、どこ、行くんだ?」  三浦はネクタイを緩めると、舞台裏の近くにあるドアのノブに手をかける。すると、三浦は何かを言うでもなく、ドアの向こうへと去っていった。 「……何なんだ? あいつ」  五島はよく分からない、とばかりに、舞台裏の天井を見上げて、目を閉じる。 「(はぁ……やっちゃったな。似合ってなくても、似合ってるって言えば……いや、それも嫌味かって言われるよな)」  本当のところを言えば、三浦にはラフな服装の方が似合うが、スーツのような硬めの服装も似合っていた。 「素直に言っても、言わなくても伝わらないなんてね」 「えっ……」  五島は誰かに何か、言われたと思って、目を開く。だが、そこはもう体育館の舞台裏でもなければ、五島が通っていた高校でもなかった。 「同じ伝わらないなら、素直に言えば良いのに」

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