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ガチャッ
「ただいまー」
「あら悠里」
家の扉を開けると、丁度出勤前のお母さん。
「今日は遅いんだね」
「まぁね〜イベント前だし。これから頑張るのよ」
「クスクスッ、ホワイトデーたくさん貰えそう?」
「勿論。私を誰だと思ってんの」
多分、僕が女だったらお母さん並みに稼げたと思う。
今日のお母さんもめちゃくちゃ綺麗で可愛い。
クリスマス以降、お母さんとなんとなく和解?した。
というか、全部僕の思い違いだった。
『え、あんたこの家に男や女連れ込んでんじゃないの?』
『私が学生の頃は取っ替え引っ替えそんなことばかりしてたから、あんたもそうするのかと思って』と、お母さんなりに気を遣って僕と会わないようにしてたらしい。
イベントは勿論、仕事も嫌いじゃないからなるべくシフト入れて家を空けて…というふうにしてたら、自然とすれ違う日々が続いたと。
『私とふたりで過ごすより好きな人といたほうがいいでしょ? 私はそうなんだけど』と普通に話をされて、これが恋愛に生きる人なんだなぁと思った。
僕のお母さんは子どもみたいだけど大人で、今でもキラキラ輝いて生きてる。
人によっては…というか大半は、そんなお母さんのこと「子どもがいるんだから」とか「いい歳して」「お金だけ渡せばいいってもんじゃないでしょ」「母親としての自覚が」とか言いそうだけど、僕はそんなお母さんが好き。
だって、したいこと潰してまで〝お母さん〟をしてほしくはないから。
「ホワイトデー、気に入った子連れ込んでいいからね」
「もーすぐそういうこと言う」
「あんたなら簡単でしょ? ホテルなんて高いしお金出されるのも気を遣うし、家でならなんでもできるんだから。
2人でも3人でもいいわね、そういうのも楽しいわよ」
「それ玄関でする話じゃなーいー!」
「あははっ!」
男は勿論女同士の経験もあるお母さんは、僕が男相手の恋愛をしてもなにも言わない。
寧ろめちゃくちゃ教えてくれる。僕も一般以上のセックス知識はあるんだけど、やっぱり年長者には敵わなくて。
クリスマス後のなんでもない日に、僕とお母さんはそんな話ばかりしてた。
「僕はお母さんがたまたま失敗してデキた子」「だから迷惑かけないよう生きていかなきゃいけない」「じゃないと捨てられる」
そう思って過ごしてたのに、実際まったく違ってた。失敗してデキたのはそうだけど、その後のことはただの僕の思い込み。
ーーそれに気づけたのは、もさ男のおかげ で。
(それも含めてバレンタイン渡したのになー)
いろいろ詰め込みすぎたか。
というかバレンタインでお礼やお返しをするのが間違ったのかな。
でも何かをあげるタイミングって、イベント以外にないし……
(…困らせちゃった、のかな)
家族以外から貰う初めてのもの。
ましてや好きな人が渡したんだから、素直に喜んでほしかった。
こっちが貰いっぱなしな分、ホワイトデーとかいらないし考えもしなかったのに。
なのにあいつはーー
(って、この僕が見返りを求めない?)
待て、それは違うだろ!
お返しなんて貰ってなんぼじゃん!しかも2倍3倍!!
それが僕の当たり前でしょ!?
どうしちゃったの僕!?
「じゃあ悠里、私行くから」
「ぁ、うんっ、いってらっしゃいお母さん!」
楽しそうに手を振って出ていくのを見送りながら、止まらないため息にまた「はぁぁ……」と息が漏れた。
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