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ー鼓動ー96

 本当に俺は一度もカラオケに来た事がないから、システムについては全く知らない事だ。  今、雄介が使っているリモコンさえも……「それ、何!?」状態なのだから。  雄介は選曲が終わったのか、部屋内に雄介が選んだと思われる曲が流れ始める。  それはいつか流行ってた曲で、少し位だったら俺でさえも耳にした事がある曲だ。  その懐かしさと雄介の歌声に聞き惚れる。  ……あ、雄介って歌が上手かったんだ。  そう新たな発見だったのかもしれない。  今までこんなデートらしい事をした事がなかったようにも思えるからだ。  デートって言葉だけで俺には少しトラウマになっていた事があって、それからはデートとは言わずに出掛けるという名目にしていたのだが、それさえも指折り数える位しかなかったようにも思える。  基本的にはお互いに忙しかったのだから、そこは仕方がないだろう。  しかもすれ違いの生活も多くて、こうしてのんびりとした時間さえも少なかったのだから。  こう昔の曲を聞いただけで、タイムスリップしたような気持ちになってくる。  雄介が歌っていた一曲目も終わり、雄介はこう慌てて次の曲を探し出す。 「一人で歌うって大変なんだな……」 「そうなんやって……歌いながら探すっていう手もあんねんけど、昔歌ってた曲やったし、歌詞とかも覚えてへんかったからなぁ、あー! もう、次何しよっ……」  そんな事を言いながら雄介は機械を操作し、そう手慣れた手つきで選曲していた。  そしてまた次の曲が流れて来る。  雄介は三十分位、それを繰り返していたのだが、 「もう、ええわぁ、満足する事が出来たしな」  そう言ってソファへと背中を預けてしまっていた。  その間にテレビ画面にはカラオケ専用のチャンネルが流れる。 「なんやろ? 今まで忙しかったからか、逆に時間を潰すって事が出来なくなってまったような気がするなぁ」 「え? あ、そうだよな。 だって、こうして雄介とこんなにゆっくりとした時間を過ごすのって初めてみたいなもんだしな」 「せやろ!?」  その言葉と共に雄介は寄り掛かっていたソファから体を起こして来る。 「そうやねんな……ホンマ、普段が忙し過ぎるもんやから、こう逆に暇が出来ると上手く時間を使えなくなってるっていうんかな?」 「でも、たまにはいいんじゃねぇのか? こうしてゆっくり時間潰すっていうのもさぁ、俺は別に嫌いじゃねぇぜ……」 「ま、望がそう言うんやったらええか」 「……って、なんだよ。 別に俺に合わせる必要なんてないんだからな」

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