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ー鼓動ー97

「あー、いやー、そういう訳じゃないんやけど。 ま、ええわぁ、カラオケ屋の方は二時間借りてもうてるし、どないする?」 「……って、言われてもな?」 「望はホンマにもう歌わへん?」 「あ……んー、俺はその本当に歌っていうのは聞かないからな、だから、知らないって言った方がいいのかな? だから歌えないっていうのか」 「そりゃ、確かに歌知らんかったら、歌えんもんな。 そこは、やっぱしゃーないか」  そう言って雄介は再びソファへと寄り掛かる。 そして腕を組んで俯き加減で何か考えているようだ。  俯き加減でも時折チラリと俺の事見上げて来る雄介。  雄介が話をしていないと部屋の中というのはカラオケチャンネル以外は静かだ。  そして再びチラリと俺の事を見上げる雄介。  それが気になり出して、 「な、なんだよ……さっきから、チラチラと俺の方を見てさ」 「あ……ん、ちょいな、なんていうんか……カラオケ屋って密室空間やからな、恋人気分を味わいたいっていうのか」  その雄介の遠回しな言い方に、流石の俺でも雄介が何が言いたいのかが分かった。  今までの俺だったら、ため息を吐いてウダウダと何もしなかったのかもしれないのだけど、この前の事で本当に雄介の大切さが分かってからは少し変われたような気がするからだ。  でもため息の方は出てしまう。 それは仕方ないという意味だ。  雄介とは少し離れた場所に座っていたのけど、俺は雄介の隣りへと向かうのだ。 「こ、これで、いいのか?」  そう上手く素直になれない俺は、ぶっきらぼうに言う。 「え? あ、まぁ……」  さっき、ああ言って振って来た雄介だったのだけど、どうやら今の俺の行動に戸惑っている様子だった。  そう目を見開きながら俺の事を見ているのだから。 「あー、だって、今の雄介が言いたい事っていうのはこういう事なんだろ?」 「え? まぁ、そうやねんけどな。 んー、えっと……その、望がな……まさか、そこまで動いて来てくれるとは思わへんかったっていうのか……なんていうのか……」 「それは……だから……俺は雄介の事が好きな訳で、少なくとも嫌いでもない訳だしな」  その俺の言葉に首を傾げる雄介。 と思っていたら急に雄介は笑い出していたのだ。 「あはは……! ちょ、その日本語おかしぃない? 好きなんやったら、嫌いじゃないのは当たり前じゃないんと違う?」 「ん? ん……まぁ、あ、そうだよな」  そう雄介に言われて自分が言った事を思い出す俺。  確かに変だ。 だけど本当に俺は雄介の事が好きだっていう事を伝えったかっただけなんだけどな。

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