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ー鼓動ー120

 こういう事に関して心臓がドキドキしてきたのは久しぶりなのかもしれない。 しかも雄介は俺の両手首を押さえている。  あー、もう、いよいよだって……気になってきて、俺は思わず瞳を閉じてしまっていた。  そしたら、やっぱり雄介の唇が俺の唇へと重なってきていたのだ。  でも、それさえも今の俺達には久しぶりで昔感じた温もりを思い出させてくれるようなキスだった。  今だって俺はその自分で言ったセリフを忘れる事はない。  俺が初めて、雄介の事を好きになって言っていた言葉だ。  本当に雄介の事が好きだから、だから雄介に『お前の温もりを忘れたくない』って言った言葉だった。 雄介もその言葉を未だに忘れていなくて事あるごとに使ってきてくれる。  だから俺も雄介に愛されているんだっていうのが伝わってくる。  いや雄介の場合には「好き」とは言ってくれるのだから、俺への愛情はいつまで経っても変わらないのだけど。  雄介が俺の唇から離れると俺は瞳を開けて雄介の事を見つめるのだ。 「キスだけで……涙目になってもうたんか?」  そう優しく言う雄介に悪気はないのであろう。 「あ、え?」  そう言われて確かに涙目なのかもしれない。 今は眼鏡も外したままだけど、いつも以上に雄介の顔が歪んで見えるからだ。 「あ、え? それは……あ、いや……なんでもないっ!」  流石にこういう時の俺は恥ずかしくて素直に答えられる訳もなく、そう焦ったように答えてしまっていた。 「ま、それが望やもんなぁ」 「あ……」  そう言って雄介は俺から離れてしまうのだ。  そして、さっきのように俺の横へと座る雄介。  ……へ? 何!? キスだけ!?  またまた、拍子抜けしている俺。  ……んー、今日の雄介は何かおかしい!? 俺にくっついてみたり離れてみたりとしているのだから。  さっきは「俺が引っ張っていった方がいい?」って聞いてきたのに、今度は引いちゃってる感じだ。  逆にそれが焦ったくなってくる。  俺も雄介の隣に座って、顔を向けないで顔を俯け考える。  ……それとも久し振りに過ぎて、抱き方忘れちゃったとか?

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