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ー鼓動ー172

 そうなると笑えてくるような気がする。 「ほな、スーパー行こか?」 「あ、え? ああ……」  ……あ、そうか……忘れてた……今は俺が雄介の前に立ってしまったから、雄介が前に進む事が出来なかったのか……。  そう思うと俺はまた雄介の隣へと並ぶ。  昔の俺は雄介の隣に並んで歩く事さえ恥ずかしくて出来なかった。 だけど今は何も気にせずに雄介の隣を歩けるような気がする。  川べりを歩いていた俺達。  夕陽が今日一日の仕事を終えて沈もうとしている。  それが川へと反射してそれがオレンジ色に見える。  こんなにゆったりとした空間を過ごしたのはいつくらいぶりなんだろう?  そして住宅街の方から夕飯の匂いもしてくる。  子供の頃に感じた懐かしい匂い……。  それは今の時代でも変わらない。  子供の頃と今とでは街並みはそんなに変わった感じがしないのだけど、文明の方は日々変わって来ている。  家電は勿論の事、家なんかも高層ビルが増えて来た。  昔はガスコンロっていうのは、ガスが主流だったのに今じゃ料理だって電気で出来る時代へとなっているのだから。 「なんか今日は懐かしく感じねぇ? ってかたまにねぇか? そういう事……」 「んー……確かになぁ、その……なんていうんか分からんのやけど、懐かしい感じがするっていうのは分かるような気がするわぁ。 子供の頃に感じたあの感じっていうんかなんていうんか、時代は変わっても空気みたいなのは変わってへんっていうんかな?」 「あ、それ! 分かるような気がするわぁ! こう言葉じゃ上手く表せないんだけどさ、こう本当に懐かしい感じっていうのをたまにあるんだよなぁ」 「ま、昔も今もそんなに変わってへんって事なんやろな?」 「そうだな……」  その言葉に俺は微笑むのだ。

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