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ー至福ー6
「そ、それ……ホンマの事なんか!?」
と雄介の方は目を丸くしながらも気持ち的に俺の方に体を乗り出す感じで聞いて来る。
そんな雄介に圧倒されながらも、
「ああ、今見ていたニュース番組っていうの? 情報番組っていうの? それでやってたからな」
そう俺の方はもう既に気にならないような素振りでご飯を食べ始めたのだが、雄介の方は何だか興奮気味になってしまったようにも思える。
雄介の方は両手を握り締め、全身を震わせていたのだから。 そして、
「よっしゃ!! これで、もう望と結婚も出来るし、子供も出来るって事なんやなぁ!」
本当に雄介の方はその話がよっぽど嬉しかったのであろう。 今度は立ち上がってまで喜んでしまっているのだから。
「な、なぁ、望……ほんならな、もう、明日にでも島の役場行こっ!」
雄介は俺の耳の側で普通の声で言って来るのだけど、
「流石にまだ早過ぎるだろ? それに、ここはまだ島なんだぜ。 俺達が早速島の役場に婚姻届なんか出しに行ったら、逆に目立っちまうんじゃねぇのか?」
そう俺の方は冷静に判断し答えるのだ。
「ああ、確かに、望の言う通りなのかもしれへんなぁ」
その俺の答えに雄介の方も直ぐに分かってくれたようだ。 そこに安心する俺。
確かに今俺の方は素で冷静に判断して雄介に答えを出したのだけど、本当にそうだ。 この島の人口っていうのは三百人位しかいない。 そんな小さな島だから噂というのは本当に回るのが早い。 それを実感したのはまだ記憶に新しい程だ。 そうまだこの島に俺達が来て一ヶ月位に、蒼空が海に飛び込んで遊んでいる時に雄介がレスキューから救急の方まで全部やってくれて、その話が次の次の日までには島には伝わっていて、しかも俺達は挨拶周りをしていた事で更に診療所の噂が立ったという事だ。 そういう事があったからこそ絶対的にこの島では噂になるのが早いという事だろう。 これがもし都会の方だったら全くもって隣近所というのは気にしない土地柄なんだから噂所か気にもされない事なんだろうけど。
「確かに、そうやんなぁ?」
俺のその言葉に今まで興奮気味だった雄介だったのだけど、その冷静な俺の言葉に急に座ってしまうのだ。 やはり今の俺の言葉でヘコんでしまったのかもしれない。
そんな雄介の横から入って来たのが裕実だ。
「確かに僕達の方も今のニュースに関して嬉しい事だなって思ってたんですが、今の望さんの答えに……あっ! って思いましたからね。 確かに望さんの言う通りですよねぇ。 僕達だって流石にそんな素敵なニュースを聞いたら、早速、婚姻届を出したいなって話をしてたんですが、この島では直ぐにでも僕達が結婚したっていうのが回ってしまって、下手すればこの診療所に人が来なくなってしまうんではないんでしょうか? って思ってしまったんですよ」
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