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ー至福ー55
『え? あ、それ……?』
俺からの質問に美里さんは一旦言葉を止めた所からすると、思い出してくれているのかもしれない。
そう本当に相当前の話だ。 あれは確か、美里さんが病気で俺達が働いている春坂病院に入院した頃の話なのだから、思い出すには少々時間が掛かるだろう。 それに俺なんかは言葉足らずなのだから余計になのかもしれない。
『えっと……私が入院している時に、雄ちゃんが昔彼女に振られた話だったかしら?』
「あ! そうです! それ……よろしかったら、教えて下さいませんか?」
『え? でも、何でなのかしら? 雄ちゃんはまだその事を吉良先生にお話してないって事でいいの?』
「あ、まぁ……そ、そうなんですよねぇ。 雄介って、何ていうのか……優しくてカッコ良くて、謙虚な性格っていうのは分かるのですが、何ていうのか……俺からするとこう何かもう一つ足りない気がして……あー……」
と俺がそうやって言い淀ませていると、
『大丈夫……大丈夫ですよ。 吉良先生。 吉良先生が言いたい事、私には十分分かりますよ。 だって、雄ちゃんとは兄弟なんですものー。 そうよねぇ、きっと、今まで居た雄ちゃんの恋人達はみんな雄ちゃんの事は本気で好きだったんだけど、やっぱり、雄ちゃんには何かが足りないっていうのよねぇー。 それが、きっかけで雄ちゃんは恋人に振られてるみたいだしね』
「あ……」
流石は雄介のお姉さんっていうだけあるのかもしれない。 そうだ雄介の性格等を一番良く知っている人間なのだから。 俺的には少し勇気を振り絞って美里さんに聞いてみただけあったのかもしれない。
『その時の話を聞いて、吉良先生は雄介とは本当に結婚する気があるのかしら?』
「寧ろ、俺的にはその話というのか、雄介が隠している事とかがスッキリしないと結婚するのは難しいと思っています。 結婚って俺的にはそういうもんだと思っているんでね。 恋人同士だったら、隠し事とかがあってもいいのかと思いますが、結婚となるとこれからもずっと雄介と暮らして行くっていう事になるんですから、隠し事みたいなのは無しでいきたいと思っているんでね」
俺は真剣に美里さんに伝わるように言ってみた。 だが美里さんの答えというのは、
『確かに雄ちゃんはそういう所あるのかもしれない。 それは吉良先生にとって、これからの結婚へに向けて心配な所なのかもしれないけど、私から雄ちゃんの事について話をしてもいいのだけど、これからの事を考えると、そういう事っていうのは雄ちゃんの口からちゃんと聞いた方がいいと思うわよ。 だって、これから先、毎回、私が吉良先生に雄ちゃんの事で話をしてしまったら、雄ちゃんの事を傷付けるかもしれないし、結婚生活も長く続かなくなる可能性だってあるかもしれないからね』
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