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ー至福ー60

 俺が部屋に入ってベッドの端へと腰を下ろすと、雄介もその左隣りへと腰を下ろすのだ。  この部屋というのはそんなに物という物は無い。  洋服をしまえるクローゼットに雄介と二人で寝れるようなキングサイズのベッドと本棚にパソコン位が置けるような机位しかない部屋だ。  だから今の俺達にはベッドの端に座るしかなかった。  そして雄介は本当に真剣に考えてくれているのか、それとも美里さんに言われて憂鬱気味なのか、この部屋に入って来てからはベッドの端に座って顔を俯けたままだった。  そして二人共落ち着いた所で雄介が話し始める。 「あんなぁ、結婚の事で姉貴に言われたわぁ……」  まぁ、そうだろう。 だって雄介と話しする前に俺は美里さんとその話について話をしていたのだから。 「望と本気で結婚したいんだったら、ちゃんとしなさい。 ってな。 そうじゃないと望に失礼やぞ。 ともな」  そう雄介は俺の方を見上げながら言って来る。 でもその表情っていうのは切ないような憂鬱そうな、こう今までに見た事のないような顔で、雄介は俺の事を見つめているのだから。  まぁ、確かに美里さんの言葉をまとめるとそういう風になったようだ。  そして雄介は視線を俺から天井の方へと向け、 「確かに、俺は……望とは結婚したいと思うとる……。 だけど、望は否定まではせんかったけど、俺との結婚を渋ってるような気がしててなぁ、確かに、この島だと婚姻届を役所に出しに行ったら、直ぐにでも島中に知れ渡ってしまうかもしれへんけど……俺はそれはそれでええと思っとる。 だって、世の中では、もう法律でそう決められたんやから、周りにどう言われようが関係無い気がするし、俺等は俺等で他人は他人って事やろ? せやから、俺的に、そう考えると……」  そこまで雄介は言うと俺の方に真剣に向き直って来て、俺の両手を握って、 「だからな……俺はもう望しかおらんと思っておるし、望のお陰で人生変われたって思うとるし、もっと言えば俺からしてみたら望っていう人物は命の恩人かもしれへんのやから、もう一生俺は望とは離れる気なんてないしな……せやから、望……俺と結婚してくれへんか?」  そう最後の方は力強く更に真剣になって俺に事を見つめた後に、思いっきり俺に向かって頭を下げて来る雄介。  そんな雄介に俺の方は一瞬で顔を真っ赤にし視線を天井の方へと向けてしまっていた。  これがきっと雄介なりのプロポーズっていうやつなんだろう。  それはそれで雄介は俺に対して本気なんだっていうのが伝わって来たからいいのだけど、俺的にはもうそこは問題ではない。 美里さんにも相談した方が俺からしてみたら重要な所なのだから。 そう今度は俺が雄介にその事を伝えなければいけない所なんだろう。 そう雄介がそこまで俺との結婚について真剣になっているのだから。 だから俺の方も真剣に話し合わなければ失礼に当たるとも思ったからだ。

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