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ー至福ー63

「その……女性も含めてか?」 「え? まぁ、そうだな」 「ほな、二人かな?」 「なんか、美里さんの話からすると、もっといるような感じがしたんだけど、そこは、雄介の言葉を信じるよ」 「え? あ、おう……」 「なら、男性と女性一人ずつって事でいいのか?」 「あ、まぁ……そうやんなぁ……一人ずつやね」  そう雄介は俺からの質問に淡々と答えている。 「消防学校時代は男性と付き合ってた。 っていう事はさ……その女性とは高校の時に付き合ってたっていう事になるのか?」 「まぁ、そういう事になるわなぁ……」  俺の方も段々と質問の仕方が分かって来たというのか、ちゃんと雄介の方も隠さず話してくれているから安心して聞けるようになったのか、気付いた時には色々と雄介には質問していたようだ。 「男性の方は、抱き方まで教わってたって聞いてて、消防学校時代に死んでしまった。 って言ってたけどさ、その女性の方はどうだったんだ?」 「あー……そっちの方な? ホンマ、大分前の話やから、俺の方も記憶の奥底にしかない事だから、覚えてないかもしれへんで……」 「それでもいいからさ」 「ほななぁ、とりあえず、告白はされて付き合って、高校生だったし学校帰りとか休日にデート位はしてたんやけど、だけど、そん時の俺っていうのは、女性と付き合ったら、デートするだけやと思ってたんやって……それに、女の子みたく少女漫画とかっていうのを読んでないから、キスさえも知らんかったっていうんかな?」  俺はその雄介の言葉で吹きそうになってしまったのだけど、そこはとりあえず押さえていつもの表情へと戻すのだ。 もしここで俺が笑ってしまったなら、もう雄介はこの事について一生話してくれないと思ったからなのかもしれない。 「キスも知らなかったって事はさ、勿論、その先の事も知らなかったんだろ?」 「あ、あったり前やんかっー! キスも知らないような高校生やったんだぞー! そりゃ、今のように抱くって事は知らんかったしな……」  そこで急に顔を真っ赤にする雄介。  いやしかしもういい大人なんだから、そこはもう顔を真っ赤にする必要はないのではないだろうか。 と思うところだ。  だが急にそこで言葉を止めてしまう俺達。  そうだ。 俺の方も何でかこれ以上雄介に聞けるような気がしなかったのか、それとも何となく答えが見えて来たからなのかもしれない。 だから、これ以上聞く必要性も無くなったからという事だろう。  急に部屋内は時計が秒針を刻む音しか聞こなくなってしまう。  それだけ今は静かだっていう事だ。

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