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ー至福ー117
「ちょ、な……」
そこで言葉を止めてしまう雄介。 きっと雄介の事だから周りが心配しないようにと気を配っているから本当の事を言わないっていう所だろうか。
「ちょっとって事はないだろ? だって痛みで顔を歪めてる訳だし、実際、痛い所を手で押さえてる訳なんだしさ。 俺達にはそういう所、誤魔化せねぇんだよ」
そこで和也は言葉を一旦切ってから、
「頭が痛いんだろ? ホント、俺達に、そういう風に隠す事なんて出来ないんだからな」
「あー……スマン……」
と雄介の方はその和也の言葉に謝っているだけだった。
俺の方は薬箱の中から頭痛薬を取り出すと、急いで雄介がいるリビングテーブルへと持って行く。
「しっかし、おかしくねぇか? そんなに頭痛って頻発するもんなのかな?」
「まぁ、偏頭痛持ちの人なら、割と頻繁に頭が痛くなるらしいんだけどさ、雄介にはそんな持病みたいなのはねぇんだろ?」
「まぁ、そんな事、今まで聞いた事がねぇんだけどな」
「だったら、今、雄介が頻発している頭痛っていうのはおかしいんじゃねぇのか?」
「もしかして、前に雄介さんって、台風で船が沈没してしまった事故がありましたよね? その時、雄介さんっていうのは、確か一日中海の中に潜ったりしてて、最終的に何処かの浜辺に打ち上げられていたんでしたよね。 そん時に頭を打ってしまっていたとか? ま、意識がなかった時があったようなので、そこで頭に異常が起きてしまったとか?」
「裕実が言いたい事は分かってるんだけどさ、それは、この前の時に病院に行って、MRIまでして検査してきたんだからなぁ。 その画像、俺も見てるし……」
「まさかとは思いますが、三人でそれを見て何か逃していたとか?」
そこで俺の方は腕を組んで考えてみる。
「いやぁー、流石になかったかなぁ? MRIなんだから、死角無くくまなく見れるだろうしなぁ?」
「頭には異常がなかったんですかね?」
「ま、そういう事になるなぁ。 しかも、医者三人でその画像を見てるんだから、見落としなんて無いと思うんだけどなぁ?」
「そう言われてみれば、確かにそうですよねぇ?」
俺にそこまで言われてしまい、裕実の方も腕を組んでしまう位に考えているようだ。
「でも、雄介が頭痛を頻発している所は気になる所だよな? あん時、見えてなかったモノが今頃になって見えるようになってきているとか? 例えば、血栓とか?」
そう言って自分で怖くなってしまったようにも思える。 そういうモノというのは事故があってから、ゆっくりと時間を掛けて起きる事なのだから。
「雄介! 頭痛の他に手とか痺れてないか?」
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