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ー至福ー128
その間というのは、テレビを点ける事もなく、ただただ部屋内には時計が秒針を刻む音だけが響いているだけだった。
きっと今のこの状況では誰一人として楽しもうと思わないからなのかもしれない。
俺は和也の言葉で、とりあえず雄介を一人にしておくしかなかった。 裕実の方は俺と雄介の間に入って話し合いを止めてしまった事に反省してしまっているのであろう。 ソファに座ってからはずっと顔を俯けたままなのだから。 和也の方は今一番に何かこう堂々としているようにも思える。 いや今のこの状況で冷静にいなきゃならないのが和也なのだから逆に堂々としているのかもしれない。
この今の三人の状況で部屋内が静かになってしまうのは当たり前だろう。
しかしこんな状況になったのは久しぶりの事だ。
俺の鼓動が時計の秒針以上に何でか早くなって来ている。
何でだろうか。 これが胸騒ぎっていうやつなのであろうか。
確かに和也の言う通り、雄介は自殺するような奴では無いっていうのは分かっているのだけど、なかなか帰って来ないっていうだけで、こんなにも鼓動が早くなって来てしまっている。
時計を見ると、雄介が出ていってからまだ三十分しか経っていなかった。
だけど待っている方の気持ちは、たった三十分が一時間にもいや五時間位待っているような気持ちになってしまうのは気のせいであろうか。
確かに楽しい時間っていうのは、直ぐに時間が経ってしまうもんだろうが、つまらない時間とか待っている時間というのは時間が過ぎて行くのが本当に遅く感じられてしまうもんだ。
とその時、物音がし、雄介が帰宅した来たかのように思えたのだが、それは違ったらしい。 ただ裕実がその場に立っただけだったのだから。
「僕っ! 雄介さんの事、探して来ますっ!」
そう言って和也が止める前に走り始める裕実。
寧ろ和也はその裕実の行動を止める事なく、寧ろソファに座ったままだ。
「和也……裕実の事を追いかけなくて大丈夫なのか?」
「大丈夫だって……裕実だって大人なんだぞ。 そこまで、心配する必要は無いだろ? それに、裕実が出て行っちまったんなら、俺と望で診療所の待機してないとダメだろ?」
またまた冷静なツッコミをする和也。 俺の方は逆に目を丸くして和也の事を見つめてしまっていた。
昔から和也という人間はそうだ。 こう俺と雄介の間で何かトラブルがあると、こう一番に冷静になって考えてくれている。 和也には言わないのだけど、本当に頼れるパートナーっていう感じだ。
「しかし、雄介のお姉さんって凄い人だよなぁ? やっぱ、雄介のお姉さんっていうだけあるのかな? 俺達、男には分からない事をちゃんと指摘してくれたりするんだしさ。 しかも、兄弟だからこそズバッと言う所は言ってくれるしさ。 暴走しようとしても、こうしっかりと止めてくれるっていう感じなのかもな」
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