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ー至福ー135
雄介がそんなに真剣なら、俺の方だって答えたい。 に決まってる。 だから俺の方だって真剣に雄介の事を見上げる。
雄介のお姉さんが動いてくれる動いてくれないは別として雄介が代理出産について本気なんだし、そこは俺としても協力したいと思っているからだ。
雄介は俺に向かって真剣な瞳で頷くと、再びスマホをガラステーブルの真ん中へと置き、美里へと電話をするのだ。
今日、美里に電話をするのは二回目。 昨日から数えれば三回目でもある。
数回コール音がした後に、女性の声がスピーカーから聞こえて来る。
「はい……雄ちゃん? また、どうしたの?」
と最初は普通の声のトーンで言ってくる美里。 これが一昔前の固定電話だったなら、名前を言うまで電話を掛けて来たのは誰なのか分からないのだが、今は掛かってくる相手が誰なのかがスマホに表示されるのだから、美里は直ぐに雄介から電話があったんだという事に気付くだろう。
「あ、姉貴か? あのな、ホンマに俺と望っていうのは、代理出産を姉貴に頼みたいと思ってんねんで、せやから、ホンマにお願い! 姉貴、俺達の願いを叶えてくれへんやろうか?」
そう言う雄介は本気の本気のようだ。 相手に見えないのにも関わらず、頭まで下げているのだから。
「あー、違うなぁ」
そう雄介は独り言を呟くと、
「本当に、姉貴……俺達お願いを叶えてくれる為にお願いします!」
と美里にまで敬語を使い始める雄介。 そう兄弟間というのは、そうそう敬語なんて使わないもんだろう。 例えば敬語を使う事があるっていう時というのは、兄弟の仲が悪くて、本当に他人と思っている兄弟が使っているか、こうやって仲がいい兄弟でも頼み事をする時には敬語を使うという事だ。
今の雄介は後者の方だから完全に兄弟の美里でも敬語を使っているという事だろう。
「とりあえず、雄ちゃんが、それについて本気なのは伝わって来たのだけど、さっきも言ったけど、出産するって本当に大変な事なのよ。 それに、私の方はもういい年で本当に出産をするにはリスクもある。 例えば雄ちゃんと吉良先生の子供を私が授かったとするわよねぇ? もし、お腹の中の赤ちゃんと私に何かあった時には、どうしてくれるのかしら? 私だって、琉斗を育てている親なんですから、もしもの事があったら? と考える時だってあるんだしね。 シングルマザーって、簡単に言うけど、どれだけ大変なのか? っていうのは他の人には分からないと思うのよね。 それなら離婚しなきゃいいじゃない? って思うのかもしれないけど、それはそれで違うのよ」
きっとこのままでは美里の話が長引きそうだが、美里が言いたい事を言わせた方がいいと思った俺達は真剣に美里の話を聞く体勢へと入る。
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