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ー至福ー139

「ほんなら、望は代理出産について諦めるんか?」  そう静かに普段よりより一層低い声が聞こえて来る。 「……へ?」  俺がその声の持ち主の言葉に対して裏声が出てしまったのは間違いないだろう。 「あ、いや……そういう訳じゃ、ねぇんだけど……」  その声に動揺してしまっているのは寧ろ俺の方なのかもしれない。 「それに、俺の方は別に……その……代理出産について諦めた訳じゃねぇし……」 「……ってかなぁっ! そういう言い方やと、諦めたようにしか聞こえへんねんってっ! 単純に俺の姉貴に話丸め込まれたんと(ちゃ)うか!? そんな話すんねんやったら、完全に俺と望の子を姉貴にしてもらうっていう話、諦めてんと(ちゃ)うか?」  普段はわりと大人しい雄介なのだが、この時ばかりは何がどうなってキレてしまっていたのかっていうのは分からないのだけど、何だか今の和也と俺との会話でキレてしまっているようにも思える。  でも雄介の言う通り、今さっきの和也と俺との会話では俺と雄介の子供を諦めているように取られてしまったのかもしれない。 だけどそこで雄介がキレる理由が分からない。  しかし本当に雄介の場合、俺にキレるっていう事は滅多に無い事なのだから、何だか変な感じだ。 でも何だか雄介がキレている理由が分かっているような気がする。  だからなのか俺の方は逆に冷静に、 「雄介が言いたい事は分かってるよ……。 俺の方は全くもって、俺と雄介との子供は諦めてねぇよ。 それだけは言っとく。 ただ、美里さんの意見も本当に分かるからさ。 確かに、今まで俺と雄介の子供について俺の方も雄介とは散々話して来た。 しかも、この二日に渡ってはマジでその事については話して来たと思う。 だけど、まだそれだけでは全然足りなかったっていう事なんだよな。 俺達、男には分からない部分を美里さんから聞いた気がするんだよ。 だから、俺達っていうのは、逆に言えばそう指摘してくれる人がいるのだから幸せな方なんじゃねぇのかな? これが、もし代理出産を他の人に頼んでいたら、それこそ間違った事になっていたのかもしれない。 もしかしたら、その代理出産をしてくれた人が犠牲になってしまうかもしれない。 確かに、直接的な殺人ではないけど、俺達がその女性に代理出産を頼んだ事によって犠牲になってしまい、その女性の人生を滅茶苦茶にしてしまったら、それって殺人と変わらなくないか? って思うんだよな。 もしかしたら、俺達がその女性に代理出産を頼まなければ、その女性はまだまだ長年生きられていたかもしれない。 って事にもなるんだぞ。 それに、俺達のせいでその女性が犠牲になってしまったっていう事になったら、俺は自分達だけが生きているっていう事が出来ないかもしれねぇ。 そこを、美里さんは言ってるんじゃねぇのかな? 特に雄介は美里さんとは血が繋がっている兄弟なのだから、雄介の事、よーく、分かってるだろうしな」

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