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ー至福ー150
「だ、だから、気にしないで下さいよー。 って今言ったじゃないですかぁー」
「あ……」
それを裕実から聞いて、思わず両手で口を塞いでしまった俺。 裕実の方は気にしないでと言っていたのにも関わらず思わずそう言ってしまっていたのだから。 そこは本当に反省すべき所だろう。
「本当に、ゴメンっ!」
そう言って再び手を合わせ謝る俺。
「の、望さんが、そこまでして、あ、謝る必要は無いんですったばぁー!」
今度は裕実の方が慌てたように手と頭を交互に振るのだ。
「あ、そうだったな……」
しかし雄介達から離れるようにしてお風呂に向かったのに、今日は裕実との会話も怪しい感じになって来ている。
「あ、あー、もう、お風呂から上がろうか?」
そんなタイミングでそう言ったなら、気まずくなってお風呂から上がろう。 と言ったのと同じような気がして来るが、これ以上、裕実とお風呂に入っていると今日はまた地雷を踏んでしまいそうだから良かったのかもしれない。
その後は二人共相手の地雷を踏まないようになのか静かにお風呂を出たような気がする。
そして雄介達が待っているであろうリビングへと向かうのだ。
「おう! 望達、風呂から上がったのか?」
「あ、ああ……おう……」
和也の言葉にそう答える俺。
俺の方はそう答えたのだけど、今日は珍しく裕実が俺達の目の前で和也に抱きついているような気がするのは気のせいであろうか。 俺の方はそこの所は気にせず、とりあえず雄介の隣りへと腰を下ろすのだ。
「何があったん?」
そう俺に聞いて来るのは雄介だ。 本当に雄介の方は何も考えて無さそうな表情に、こっちの方は拍子抜けしてしまいそうでもある。
それでも雄介にだって今の裕実の様子で、俺と裕実の間で何かあった。 という事が分かったのだから、当然、和也には分かっているという事だろう。
「いや……別に……俺達がこの島から離れるのを裕実が寂しい。 って言ってくれただけだよ」
その言葉に雄介は一瞬俺の顔を見て目をパチクリとさせていたのだけど、その一瞬で俺と裕実の間で今までどんな会話がされていたのかを想像してくれたようで、
「ま、そうやんなぁ……。 もう、ずっと裕実達とはほぼ毎日のように一緒に居たようなもんやから、離れて暮らすっていうのは寂しいもんやしなぁ。 でもな、人間って、出会いもあれば別れもあるんやから、そこの所は仕方なくないか? それに、今の俺達っていうのは、今まで無理やって思っておった同性婚が出来る時代になってきたんやで、今、これに乗り遅れてしまったら、俺等の場合、もう後が無い訳やろ?」
「あ、ああ……まぁ、そうだな」
雄介にそう言われて、俺の方は一瞬目を丸くしたのだが、確かに雄介の言う通りだろう。 そう、雄介が言いたいのは今が東京に向って婚姻届や子供を育てていく最後のチャンスなのだから、これを逃してはならないという事だろう。
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