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ー至福ー152
和也はリビングテーブルの椅子に座って、裕実の方はそこの前で立っている。 それに和也は裕実の両手首を押さえ話をしている所を見ると、親が子供に説得しているかのように見えて来る。
しかし、ここまで話を進めておいて、まさか裕実に俺等と離れる事が『寂しい』とは言われるとは思っていなかったのかもしれない。
確かに今まで俺の方は雄介と婚姻届を出したり、子供の事で話し合いをして来たのだけど、裕実や和也の事を全く考えていなかったという事だ。
裕実や和也というのは俺からしてみたら親友という存在で、この世で一番大事な友達だった筈だ。
ホント、俺の方は目先のことだけというのか、雄介とのことしか考えてなかったという事だろう。
和也と会う前というのは、友達と呼べる人物さえいなかったからなのか、こうも友達を大事にするという事を忘れていたのかもしれない。
そうだ。 和也と出会って、友達同士で呑んで楽しんだり、笑って楽しんだりするっていう事を覚えて来た筈だ。
一人では楽しめない事も、二人でいると楽しめる事も教えてくれたような気がする。
本当に和也はそこの所を自然と教えてくれたような気がするのだ。
和也には裕実という恋人が出来てからは、益々、和也は裕実に色々と教えて来たような気がする。
裕実の方も俺と一緒で友達が居なかったらしい。 しかも父親からの虐待もあってか、本当に今まであまり人と関わりが無かった育ち方をして来たのだが、和也と出会って、俺達とも出会って、和也には本当に色々な感情を教えて貰ったのであろう。 だからなのか、今回の事に関して俺よりも先に『寂しい』という感情を吐露してくれたのだから。
だけど、今回の事に関しては完全に和也達と別れるっていう訳ではないのだから。 そんな『寂しい』と思う事もないのかもしれないのだけど。
それに俺達というのは、もう一生ここに帰って来ない訳ではないのだけど……それでも、離れる一年から二年の間、裕実は寂しいと感じているのであろう。
そこに納得した俺。
もう一度、和也と裕実の方へと視線を向けると、和也の笑顔が入って来る。
俺達が東京へと行ってしまったら、今暫く和也のあの笑顔には会えない事にもなる。
そう考えると確かに寂しい気持ちにもなって来るけど、今はとりあえず雄介との事を考えて行かないと俺達の方は前へと進めないだろう。
『友情』と『愛情』というのは天秤に掛けられないけど、でも自分達の人生なのだから、前に進んで行かないとどうにもならないのだから。
そんなこんなで雄介がお風呂から上がって来る。
しかしバスタオルで頭を拭く姿が画 になるのは雄介だけだろう。 本当にいつまでも劣らないというのか、寧ろ昔よりかっこよさがグンと増して来ているのは気のせいであろうか。
ホント、雄介の場合にはイケメンおじ様っていう感じだからだ。
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