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ー至福ー163
そこに警戒する俺。
そう夜中だから幽霊の類いが動き回っているのであろうか。 だが俺みたいな非科学的な事を信じれない人はただただその気配に耳を傾けるだけだ。
俺の方はトイレの中で息を潜めて待つ。
だがよく考えてみると幽霊っていうのは元から足というのが無いと聞くのだから、寧ろ廊下の板が軋む音が聞こえて来るのはおかしな話だろう。 それならやはりそこは生きている人間が歩んでいると思った方が自然だという事だ。 だがこの時間にこの一階の廊下を歩く人物というのは一体誰なんだろうか。 もしかしたら泥棒の類いかもしれない。
……医者って言ってもここはそんなに儲けてる訳じゃねぇぞ。
俺はそんな事を思いながら、トイレの中で気配まで消して息を潜めて、とりあえずそいつが通り過ぎるのを待つ。
変に胸の鼓動が自分の耳にまで聞こえて来そうだ。 それ程今はこの辺一体は静かなのだから。
トイレから見えない分、本当に今の俺というのは恐怖でしかない。
何だか急に廊下の板が軋む音が止んだ。 しかもトイレの前でなのかもしれない。 いやトイレの前でだ。
俺の方は余計に緊張感が増して来る。
鼓動も息の苦しさもマックス状態だ。 今はさっきまであった興奮状態というのは全くある気配がない。
そして急にトイレをノックする音が聞こえ、何でか俺はトイレのノブを押さえてしまっていた。
「ちょ、ここに望は居 るんか?」
「……へ?」
この声、この喋り方と言い、この島では寧ろそんな方言を話すのは雄介しかいないだろう。
「……へ? 何で、お前が?」
と他人からしてみたら、変な質問をしていたのかもしれない。
「え? あ、あー……なんか、目覚めたら、隣りに望の姿が無かったからなぁ。 トイレにでも行ったんかな? って思うたんやけど、いつまで経っても帰って来ぇへんし……そいで、何処に居 んのやろ? と思うて、探しに来てたら、ここのトイレの電気が漏れておったしな」
「あー!」と心の中で叫ぶ俺。
「ところで、一階のトイレにまで来て、どうしたん? 寧ろ、夜トイレに起きたんやったら、二階のトイレ使うやろ?」
何も考えてないような質問に俺の方はため息が出そうだ。 だがそれを自分から言うのは恥ずかしい。 まだ俺と言うのはそこまでオープンな性格ではないのだから。
「あー……ちょっとな……」
それじゃあ、誤魔化し切れないだろうが、とりあえず言ってみる俺。
「お腹の具合でも悪いんか? なんか、俺、悪いもん食わしたかなぁ?」
そうごくごく普通な心配をしてくれている雄介。
「そ、そんなに心配しなくて大丈夫だからさ……。 俺はここにいるの分かったんだし、先に部屋の方に戻っておいてくれねぇか?」
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