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ー至福ー166

「あ、え? あ、ま、そっか……ま、確かに、雄介の言う通りなのかもな。 そういう事な……昨日の夜、望っていうのはお腹が痛くてトイレに籠っていただけだって事なぁ」  そう雄介の言葉で納得してくれる和也。  そこにホッと安心したのは言うまでもないだろう。  しかし雄介っていうのは凄いと思う。 本当に俺が嫌だ。 って事はしないし。 こうやって和也からの変な攻撃にちゃんとフォローまでしてくれるようになってくれたからだ。  特に和也達と一緒に住むようになってから雄介は俺の事を守ってくれているような気がする。  しかしそうなってくると益々、俺の方が悪いっていう気持ちになってくるのは気のせいであろうか。  ま、そこは俺の方が雄介に嘘を吐いているのだから悪いと言う気持ちになるのは当たり前な事なのだけど。 「とりあえず、早よ、飯食って、用意しないとなぁ」  そう椅子に座って笑顔で言う雄介。  本当にあの太陽な笑顔に癒される。 そして今日一日頑張ろう! と思うのだから雄介の笑顔っていうのは偉大なのかもしれない。  そしていつものように他愛のない会話をして仕事の準備を始める俺達。  俺の方は一人ロッカーへと向かうと、白衣に着替え、ロッカーを閉める時に思いっきり息を吐く。  これが俺なりのスイッチの入れ方なのだから。  俺が自分の診察室の方へと入ると、もう反対側では雄介が作業をしているようだ。 パソコンを起動してキーボードを打つ音也が聞こえて来るのだから。  しかし雄介は消防士時代はきっとあまりパソコンというのは縁が無かったのかもしれないのだが、医者になってからはパソコンからタブレットまでこう電子機器を扱う事が増えて、一気に覚えるような事が増えた筈なのに、気付いた時には、もう雄介の場合簡単に使いこなしていたようにも思える。  でもまさかあの雄介が医者になるなんて思ってなかった事なのかもしれない。  俺がそう思っていると、今度は和也が俺の診察室の方に入って来て掃除を始めてくれる。  本当に和也とずっと一緒の俺。  そう和也とこうやって一緒に働いて来て、もう何年になるだろうか。 寧ろ、俺と和也というのは、春坂病院で働き始めた頃からずっと一緒だ。 しかも雄介よりも長い付き合いでもある。  よく考えてみると今回俺等の方は婚姻届の事や子供の言葉で一旦東京の方へと向かう事になった。 だけど和也や裕実は島に残ってくれる事になる。 今までずっと居た人と離れるのは確かに寂しい気もする。 いや完全に和也と初めて離れる事になるのだから確実に寂しいだろう。 俺の場合にはもしかしたら全くその意味に気付いてないだけなのかもしれない。

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