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ー至福ー167

 昨日の夜、裕実は普通に俺等と離れる事を寂しがっていた。 裕実はそれを察知していたという事だろう。 だが俺の方にはまだそんな感情というのか未来の事を考えられていないだけなのかもしれない。  ずっといつも俺の隣りで働いていてくれた和也。  和也達と離れてしまうと何か足りなくなってしまうのは確実だろう。 いや前に和也と俺が喧嘩した時に、一回俺の方は寂しい思いをした筈だ。 和也とは違う看護師さんとコンビを組んだ時、確かに寂しい思いというのかいつもとは違う感じをしていた。  春坂に俺達が行ってしまうと、俺の隣にいつも居てくれた和也の姿がなくなる。 「あ、そういう事か……」  やっと昨日裕実が「寂しい」と言っていた気持ちが分かったような気がする。  そこで俺は和也の方へと体を向けて、 「あのさ……和也、今まで本当に、ありがとうな」  そう俺の方は和也に誠意まで伝わるように感謝の気持ちを述べると、和也の方は思いっきり引いたような表情をしていた。 「え? 急にどうした?」  そう何だか棒読みのような言葉。 「え? いや……だからさ、今まで和也には色々とお世話になってきただろ? だからだよ……」  それでも和也の方はまだ俺が言いたい事は分かってないようで、逆に悩んでしまっているようにも思える。 「んー……どういう事?」  いつもはそういう所、敏感な和也なのに、こう自分の事となると分かってないのか、そう言って来るのだ。 「だからだな、俺等っていうのは、一ヶ月後には、また春坂の方に行っちまうだろ? だから、先にお礼言っておこうかな? って思ってさ……」  そんな俺に和也の方は眉間に皺を寄せ、挙句何でか箒を両手で掴んで頭を俯け完全に考えてしまっているようにも思える。 「あー……望にそう言われると……何て言うのか……違和感があるっていうの?」 「ん?」  その和也の言葉に逆に俺の方が、目が点になってしまう。 「あー……望がそう素直に言ってくれるのは本当に嬉しいんだけど……あー、何て言うのか……言い辛いんだけど……逆にそっちの方が調子狂うっていうのかな?」  やっとこさ、和也が俺に言いたい事が分かったような気がした。  簡単に言えば、普段素直じゃない俺が急に素直になると、和也の方がパニックになるという事だろう。  それを和也的には完全にオブラートに包んで言ってくれたという事なのかもしれない。  和也の場合、わりと物事をストレートに言うもんだから、和也の方だって寧ろオブラートに包んで言う方が俺からしてみたら珍しいという所であろうか。  そこに俺の方はクスクスとすると、 「ま、いいんじゃねぇ? たまには、お前が調子狂ってみた方がさ……」  なんて事をいたずらっぽく言うのだ。

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