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ー至福ー168

「ホント、お前も言うようになったよなぁ……」  そうクスクスしてくるのは和也の方だ。 「ま、とりあえずさ、今は仕事しようぜ」  そう言うと俺は和也の額へとデコピンを喰らわせるのだった。  本当にこういうやりとりというのはいつ振りなんだろうか。  和也と本当に二人きりの時にしかやった事がないような気がする。  とりあえず俺の方もスイッチを切り替えて仕事モードにチェンジするのだ。  今日も相変わらず、午前中の一時間位だけで終われるような人数。  元からこの島に住んでいる住人というのは東京に比べたら確かにひと握り程しかいない。 そこで病気や怪我で診療所へと訪れる人はもっと少なくなるのだから、その位の時間で診療時間っていうのは終わってしまうのであろう。  俺はあと一ヶ月しかいない診療所を中を歩き始める。  初めてここに来た時に、診療所の中はひと通り歩いてみたのだけど、その後は一回も歩いた事はなかったからだ。 それに少しの間というのか、間を空ける事になるのだから、ちゃんと中を見ておきたかったのもある。  診療所の待合室には、雄介が考えたのか子供が少し遊んで待っていられるようなスペース。 そこの床にはジョイントマットが敷いてあって、足等を痛めないような工夫がされてあった。 そしてエル字型に、玩具が入っている棚と本が並んでいる棚があるのだ。  本当にそこは雄介らしいと言えば雄介らしいのかもしれない。  お子様のコーナーはそんな感じで、大人達が待っている待合室の方というのか、お子様コーナーの真横にあるソファが大人が待っている所だ。  島の小さな診療所なのだから、そんなに広くはない。  そこに俺が居る事に気付いたのか、小児科のドアから覗いて来る雄介。 「どないしたん?」 「あ、いや……ちょっとなぁ。 あんま俺は待合室の方に来た事がなかったから」 「あ、そうなぁ、そういう事な」  そう笑顔で納得してくれる雄介。  しかし雄介っていうのは、まだ付き合い始めた頃、全くもって俺の事を分かってくれなかったのだけど、医者になってからは本当に言葉足らずな時でも分かってくれているような気がする。  付き合っているうちに雄介は俺の性格を分かってくれたりして、医学部に通うようになってからは何だかもっと俺の事を分かってくれたような気がするのだ。  最近に至っては、本当に俺の事を守ってくれたりしてくれているのだから。  そう和也や朔望から、俺の事を守ってくれている。  そして日常生活においても昔は何でもかんでも俺に聞いて来ていたのだけど、今は俺がちょっとだけ言いづらそうにしていたり、何か抜けてしまっているような言葉でも雄介の方は分かっているという感じだ。

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