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ー至福ー169
俺の方はこの小さな診療所をひと通り見渡すと、再び自分の診察室へと戻って行く。
本当にここは都会と違って、静かで時がゆっくりと進んでいるような気がする。
診察室にある自分の椅子に一人座っていると、波が行ったり来たりしてる音、風が木々を揺らす音等が耳に入って来て、癒される感じがある。 また視覚や嗅覚にも優しい感じがするのだ。 例えば、匂いだってごく自然匂いしかしてこないのだから。
これが都会となると、車の音に電車が走る音、飛行機の音にと人々の話し声と、本当に耳が騒がしい位に音が充満してて、それで耳の方が疲れて来てしまうのであろう。
しかし今日も診療時間というのは本当に一時間程しかない。
確かにここに来てからは、のんびりとした時を過ごせているのだけど、俺に関しては本当そういう時間は苦手だ。
きっと春坂病院にいる時っていうのは常に何か動いていたからなのであろう。
診療時間は午前もあるが、午後にもきっちりある。 その時間ずっと患者が耐えない位なのだから。
よくよく考えてみると、この島の人数と都会の人数では全くもって住んでる数が違うのだから、都会と島では忙しさが違うのは当たり前の事なのかもしれない。
今更、そんな事に気付いてもよくよく考えてみれば当たり前の事なのであろう。
いや今まで本当に島での暮らしが忙しかったから、こうやってのんびりとした時に気付けた事なのかもしれない。
確かに島での暮らしでは体力的に疲れる事は少ないのだけど、精神的には考える事が多過ぎて普通に疲れて来ているのかもしれない。
それに俺の方は悩み事とかあると上手く話す事が出来ないのだから余計にだろう。
いや今は前の時よりか、和也達の事を信用しているからなのか、そんなに悩み事というのはなくなったような気がする。
本当に長年、和也達と一緒に来たからこそ、やっと俺の方は和也達を信じれるようになった。
そこにほんのりクスリとすると、和也と視線が合う。
そんな和也に笑顔を見せてしまっていた俺。
「え? 急にどうしちまったんだ?」
そうふざけながら言って来る和也。
しかし暫くこのふざけた笑顔に会えなくなってしまうのは少し寂しい気もする。
「あ、いや……なんでもねぇよ……」
そう言って俺の方は和也から視線を離すのだ。
ホント、和也と二人きりになると和也には本音を言えないのは何でなのであろうか。
そこは自分でも分からない所だ。
しかし和也の方は患者さんがこの診療所に来ない間も何かしらで動いてくれているような気がする。
さっきまで俺の近くにいると思ったら、気付いた時には何処かに行ってしまっているのだから。
和也の方も仕事中というのは本当にクソ真面目なのであろう。
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