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ー至福ー175

「でも、何もなかったんなら、大丈夫なんじゃないんでしょうか?」 「確かにな……でもさ、頭痛があるっていう事は、痛みがあるっていう事だろ? 逆に言えば、何も無ければ痛みっていうのは無いんだから、痛いという事は、何かしらあるっていう事なんじゃねぇのか?」  本当に俺の方は裕実だと本音が出てしまっているようにも思える。 「あ……」  そう自分の言葉に変に声を出してしまった俺。 そう自分が今言った言葉に納得しているからだ。  毎年のように検査して自分の体の状態を見ている人は全然いいのだけど、病院嫌いな人っていうのは自分の体から不調を訴えない限りは病院にはいかないもんだ。 だから痛みが出てからでは遅い場合だってある。  雄介の方も若干そういう気はある人物だ。  寧ろ雄介の場合には、病院が嫌いっていうのではなく心配を掛けたくはないからという理由で言わない方なのかもしれない。  頭痛だって、本当に痛くなってから訴える位なのだから。  それにここには春坂に比べたら、検査器具というのは揃ってはいない。 例えば、CT等だ。  もし急患が出た場合には、春坂病院に連絡してヘリを飛ばして貰う手筈にはなっている。 だからここにはそういった器具はない。  だけど本当に一刻を争う事態になった場合には本当にどうする事も出来ないという事だろう。 「なら、そうなんじゃないんですかね?」 「あ……」  裕実と話をしていると本音が出てしまう俺なのだから今自分が言った事は納得出来る。  本当にそういう所、雄介は困る所だ。  普通の患者さんよりタチが悪いのかもしれない。  身内だから心配を掛けたくはない。  俺もそんな一面があるのかもしれないけど、雄介の方が俺より上のような気がする。  だけどそうやって我慢して、もし雄介が死んでしまったら、それはそれで無理な話だ。  この前の事は誤診っていう訳ではないのだけど、これだけ雄介が不調を訴えているのだから少なくとも何かあるっていう事だろう。  一ヶ月後とは言わずに早めに春坂の方に戻った方がいいのかもしれない。 だけど朔望達だって一ヶ月で担当している患者さんを違う医者に引き継いで来ないとならないのだから、一ヶ月は欲しい所だ。 じゃあ、それだったら、この一ヶ月他の誰かを連れて来たらいいのであろうか。 いやここは俺達の診療所なのだから他の誰かを連れて来るのは、あまり好ましくはないだろう。  それに和也達だってそうだ。  和也達は俺が島の診療所に行くから、付いて来てくれたのだから、そこはやはり身内以外は違うような気がする。  やはり俺以外なら朔望や歩夢の方がいいという事だろう。

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