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ー至福ー176

 そこで裕実に何となく聞いてみる事にする俺。 「なぁ、裕実……流石に俺と朔望達以外が医者で働くのは嫌だよな?」  裕実の方は少し考えてくれているのか、視線を天井に向けて手を顎に当てていた。 「まぁ、確かに、僕の場合には人見知りが激しいので、他の人はちょっと……」  そう人の事ハッキリと言わないのが裕実の特徴だ。 そう裕実の場合ハッキリと嫌だとは言わないのだが、それだけでも十分に嫌だ。 と言ってるようにも思える。 「だよな……。 いやさ、雄介が最近具合が悪いのは、熱中症っていうのだったら、然程心配っていうのは無いんだけどさ、もし、脳の方に異常があった場合、もう明日にでも春坂の方に向かわないとマズいだろ? だけど、朔望達っていうのは、この一ヶ月で患者さんを他の医者に頼まないといけないだろう。 だからさ、後一ヶ月島の患者さんには待っていただくか? 違う医者をここに連れて来ないと診察が出来ないじゃんか……」 「あ! そういう事だったんですねっ! 望さんが悩んでいた事っていうのは……」  その俺の言葉でポンっ! と手を叩く裕実。  しかし本当に俺は裕実の前では本音を言ってしまっているような気がする。 「え? あ、まぁ……そうなんだけどな」 「それで、さっき僕にそういう風に聞いて来て下さったって訳なんですね」  こうさっき俺が聞いて来た言葉と今言った言葉で裕実の頭の中で何かが合致したのであろう。 裕実の方は納得し、目を見開いているのだから。 「確かに、雄介さんの事を考えたら、早く春坂の方に行って頂いて、本格的に検査した方が安心出来ますしね。 だけど、後一ヶ月何も痛みが無ければ熱中症っていう事になりますもんね」 「そういう事なんだよな。 熱中症なのか? それとも、雄介は前に海の中に彷徨った事があったから、それが原因で脳に異常が出ているのか? せめて、そのどちらかだっていうのが分かれば、俺達の方は、まだゆっくりとこの島にいる事が出来るんだけどな」 「確かに、そうですね。 明日にでも雄介さんが元気にさえなって頂ければ、望さん的にも問題無いっていう事ですもんね」 「今の所はそういう事だな。 熱中症の症状の中に、頭痛は入ってるし、それはそれであり得る事だからな」 「ですね。 熱中症であれば、直ぐに治る可能性もありますし、明日までは様子みる必要性があるのかもしれませんね」 「そうだな。 じゃ、とりあえず、今は俺達だけで診察してようぜ」  何だか悩んでいた事を人に話して俺の方はスッキリしてしまったのか、いつもの俺になると診察時間もあってか、仕事を始めるのだ。

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