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ー至福ー184
しかも視線を離してまで話す和也。 そこはそんなに思い出したくはない過去という事だったのであろうか。
「ま、ま、いいんじゃねぇ? だって今は、ちゃんと仕事が出来てるんだからさぁ」
やはり和也は未だに顔が引き攣っているようにも思える。
俺の方はそんな和也の反応に首を傾げていると、
「ご飯終わりましたし、片付けてお風呂にしませんか? か、和也……今日は一緒にお風呂に入りません?」
と急にそんな事を入れて来る裕実にも俺の方は頭にハテナマーク状態だった。 それに裕実自ら和也に言うなんて事、滅多な事ではないのだから余計になのかもしれない。
そしてそう言って食べ終えた食器を流し台へと置き、和也と裕実はリビングを出て本当にお風呂場へと向かったようだ。
そして俺は俺の隣にいる雄介に、
「なんか、俺って悪い事言ってたのか?」
「へ? あー……ど、どうなんやろな? 少なくとも、裕実はなんやこう眉間に皺を寄せていたように思えたんやけどなぁ」
「そうだったのか? へ? だって、その話、ある意味振って来たのは和也だっただろ?」
「まぁ、確かにそうやねんけどな……でもな、なんていうんかな? やっぱ、人にはして欲しくない話もあるみたいやし、そこの所はちょっと注意した方がええのかもなって、事なんかな?」
「え? って、事は今の話っていうのは、俺が悪いのか?」
「あ、いやぁー、そういう意味やなくてな……」
きっと今の話の流れからすると雄介は俺が悪い所がある。 と言いたい所なのだけど、そこは雄介の優しい所なのであろう。 上手く誤魔化して来てくれているようにも思える。
「なんていうんか? みんな過去の失敗話っていうのは、嫌な思い出の方が多いと思うねんで……せやから、いい話っていうのはええねんけど、失敗した話っていうのは、あまりせえへん方がええのかもな……っていう意味や。 俺の方はホンマ、望に隠し事したくないから、そこの所は注意っていう感じなんかな?」
その雄介の説明で俺の方も分かったような気がした。
俺というのは、本当に話し下手だ。 だからこうたまに人の地雷みたいなのをしてしまうのであろう。
「……そういう事か。 すまなかった……今度からそういう所気を付けるようにするよ」
こう今では雄介には素直に言えるようになってきたような気がする。
これがちょっと前の俺だったら、そういう風に注意みたいなのをされただけで雄介からそっぽを向けていたのであろうが。
「そっか……望が分かってくれたんだったら、良かったわぁ……」
そう言って食器を片付けようと立ち上がった雄介の手が俺の頭へと触れる。
こんな小さな触れ合いでも、今の俺からしてみたら十分に幸せな気分になれているのだから、素直になるっていうのも悪くないのかもしれない。
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