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ー至福ー188

「え? せやから、俺が『和也と離れるの寂しいのか?』みたいな事を聞いておったのに、今の望は『違う』って答えといて、『和也と離れるのが寂しい』って、言ってたんやで」  そう言いながら俺と雄介は脱衣所からお風呂場へと向かうのだ。 「ん? んん?」  その雄介の言葉に俺の方は今一度自分が今さっき言っていた言葉を思い出してみる。  確かに思い出してみたら、全くもって雄介が言っている事と同じ事を俺は言っていた。  今日は本当に頭の回転がいつも以上に回ってないような俺。 でもそうやって口にしてしまう位なのだから、やはり和也達と離れてしまうのは寂しいと心の奥底では思っているのであろう。 「でもさ、やっぱ、無意識のうちに言葉にしてしまっているのだから、実際、そうなんじゃねぇのかな?」 「でも、望は和也の前では、こう素直に言えへんのやろ?」 「え? あ、まぁ……何でかな? 何でか、和也の前ではこう言葉が素直に出て来ないんだよなぁー……。 俺にもそこの所は分からねぇや……」 「ん、まぁ……こう人間って、口に出して言える相手と口に出して言えない相手といるもんやしなぁ。 でも、望は本当の所、どう思ってるん?」  そう雄介は体を洗いながら聞いて来るのだ。 「え?」  流石の俺も雄介が何を質問してきたいのかが分からず、声を裏返す。 「あー……だからやな。 だから、自分達の為だけにこの島を離れるって事を……かな?」  こう雄介は天井の方へと視線を向けながら話をしているっていう事は、わりと雄介の方も言いにくい質問だったのかもしれない。 「え? あー……そうだな?」  俺の方もこういう質問に答えるのは本当に苦手だ。 だから真剣に答えたいと思ったからなのか、俺の方も雄介同様に天井の方へと視線を向けてしまっていた。 「いや……全然、俺の方は春坂に向かうのはいいと思ってるよ。 それで、真剣に好きになった人と結婚して子供が出来るのは全然いいと思う。 だけど、なんかこう、今まで一緒だった裕実と和也と離れてしまうっていう事が寂しくなるのかもしれないのかな? って……そこだけが、今は悩みどころなのかもしれないな」 「まぁ、そういう事やんなぁ。 でも、流石に和也達も一緒に春坂に行くっていうのは、俺の方はちょっと違うような気もすんねんけどな。 だってな、やっぱ、俺達が島に帰って来るまで島の診療所を守ってくれて欲しいやんか……それに、この診療所は望の親父さんに任されたところなんやから、なんかなぁ……他の人に渡したくないっていうんかな? 和也だからこそここを任す事が出来る。 俺は、そんな気がするんやって」

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