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ー至福ー190

 そして久しぶりに俺の胸の鼓動が高鳴り始める。  俺の方はこう真剣な瞳で雄介の事を見上げて言っていたのだから、完全に今は雄介とは視線が合ってしまっているのだから。 そしてその雄介も目を丸くしたまんまではあるのだけど、俺の事を真剣な瞳で見つめてくれていた。  こんな事、今まであっただろうか。  きっと雄介が今まで俺に本気だったからこそ、俺も今更ながらに本気で答えようとしていて今のような行動が出来たのであろう。 それに俺達っていうのは、本当に真剣に結婚についても散々話し合って来たのだから、今こそ俺は雄介の事を信用してもいいと思っているのかもしれない。 「そやな……ありがとうな。 望がそんな事行って来てくれて……ホンマ、俺の方は嬉しい……。 そういう言葉ってホンマは俺の方から言わんといけない言葉だと思うねんけど……」  そこで雄介は言葉を止めてしまったのか。 っていうのは分からないのだけど、俺の方はその後直ぐにこう間髪入れずに、 「そこは関係ねぇんじゃねぇのか? 俺達の立場っていうのは、男女の恋人関係とは違うんだからさぁ。 俺達っていうのは、同性のカップルなんだろ? なら、そういうのどっちが先に言うとかっていうのは関係無いんじゃねぇのかな? って俺は思うんだけど……」  俺は本当に雄介に伝えたかったからこそ、本当に真剣な瞳で雄介の事を見つめるのだ。 「あ、まぁ……あ、そうやんなぁ」  そう言う雄介は照れくさそうな表情をして頬を掻いてしまっていた。 きっと雄介は本当に照れ臭い時っていうのは、そっぽを向いて頬を掻く時なのであろう。  俺の方はそこにもクスクスとしてしまう。  本当に今日は俺が素直な事ばかりを雄介に言うもんだから、若干雄介の方はそんな俺に困っているのかもしれない。  確かいつか言っていたようにも思える。 俺が素直な時の方が調子狂うんだっていう事を言っていた。 「あー、ホンマ、今日の望にはやられてまうわぁー。 あんな、男っていうのは、理性っていうのがあってな、そんで、それがプッツン! ってなると、オオカミさんになってまうんやでぇ!」  本気なのか冗談なのかっていうのは分からないのだけど、雄介はそんな事を言いながら、両手を上げてオオカミのマネをしていた。  そこに再び笑ってしまう俺。 「……って、笑っておるけど、こっちの方は本気なんやからなぁ!」  今度は腕を組んで頬を膨らませる雄介。  本当に今日の雄介っていうのは、表情が豊かだ。  今日は何でこんなにも表情が豊かなのであろうか。  もしかして雄介の方も多少は和也達と離れるのが寂しくて、それを隠す為に色々な表情を見せてくれているのであろうか。 いやもしかしたら案外そうなのかもしれない。 いやいや雄介の場合には、そんな事があれば逆に素直に言ってくれるのだから、普通に考えればやはり雄介の言葉の意味というのは本気だという事だろう。

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