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三章ー未知ー1
しかし春坂という街は、島とは違い、蒸し暑い。 いや、もう夏という夏は終わった筈なのに未だに暑いという事だ。
蝉の鳴き声もおさまり夜には秋の虫が音楽を奏でる頃。 俺達は再び春坂に居た。
たった一ヶ月いないだけでこんなにも懐かしく感じてしまうのは、俺が生まれ育った街なのだから余計なのかもしれない。
最終的に持って来た荷物というのは、スーツケースだけだった。
ホント、このスーツケースにはお世話になっている。
俺のはシルバーで雄介のはメタリックブルーだ。 ブルーと言っても明るいブルーではなく濃いブルー色だ。
それをガラガラと引き、春坂駅ロータリーのタクシー乗り場へと足を向けるのだ。
そう俺達には今車はないのだから。
今回、決めてから春坂へと来たのだから、朔望の車のキーは預かって来た。 自分の車を持って来ても良かったのだけど、最終的にはまた島に戻るのだから、俺の車のキーを朔望に渡して、朔望の車のキーを今回は預かって来たという事だ。 それに朔望も俺の車も同じ車種で色が違うだけなのだから、俺的には全く問題はない。 だけど島にいる時はあまり車を運転する機会なかったのだから、今回こっちに来て久々に車を運転する事になるだろう。
タクシー乗り場でタクシーに乗り込むと、後は運転手さんに行き先を告げて、前に住んでいた家へと向かってもらう。
「前に来た時は暑かったけど、今もまだ暑いよな?」
「ホンマやねぇ、なんていうんかな? 蒸し暑いって感じなんかな?」
「俺達の小さい頃っていうのは、この頃になれば、かなり涼しかったような気がするんだけどなぁー」
「ま、今は温暖化って言うてる時代だから、毎年毎年こうも気温が上がって来てるような気がするわぁー」
「まぁ、そうだな」
そんな話を雄介としていると、どうやら今は朔望達が住んでいる家へと着いたようだ。
タクシーの運転手さんにお礼を行って、門へと手を掛ける。
そして朔望から預かって来た家の鍵でドアを開けると、本当懐かしい雰囲気に包まれたような気がしたのは気のせいであろうか。
確かにもう二ヶ月前はここに俺達っていうのは住んでいたのだから、懐かしいと思ってもいいのかもしれない。
だけど匂いの方は朔望達の匂いと変わっていた。 これから暫くここに俺達が住んでれば、きっと匂いは俺達の匂いへと変わって行くだろう。
とりあえず俺達の方はスーツケースをリビングにまで運んで来ると、ソファへと腰を下ろすのだ。
「ココって、あんま、変わってへんなぁ」
「まぁ、そうだけどさ……でも、なんか埃っぽくねぇ?」
「ホンマ、あいつ等は掃除せんもんなんかな? 前に来た時もキッチンの方も埃ぽかったしな」
そう言いながら雄介も俺が座っている隣りへと腰を下ろして来る。
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