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ー未知ー29
確かに流れでラブホに来たのはいいのだけど、やはり宝石店に行く気で来ているのだから、気持ち的にちょっとお高いスーツを着ている俺。 本当にこれだけは汚したくはない。 だが着いて早々に雄介の前でもスーツを脱ぐ事は出来ず、ただただ俺の方はベッドの端に座って息を吐く。
久しぶりに都会に来たのだから、多少は疲れている。 だからなのかそういう意味で息を吐いたのだった。
そんな中、雄介はスーツのネクタイを緩め、スーツのジャケットをハンガーへと掛けていた。 そしてそこへネクタイをも引っ掛ける。 本当にそんな動作すら俺からしてみたらカッコ良く見えてしまうのは、雄介が俺の恋人だからだろう。
「なぁ、そのスーツ、お前のも高そうなんだけど……?」
「え? あ、まぁな……ちょい、ブランドもんやしな……」
「あ、やっぱり……」
自分で振っておいてなんだが、興味無さそうな返事をし、その場で天井を見上げる。
「あ! そうだ! 俺も……スーツハンガーに掛けておこー!」
と起きあがろうとした瞬間、雄介の顔のドアップが視界へと入って来るのだ。
「……へ? ……ん?」
その瞬間に雄介に唇を重ねられたのは言うまでも無いだろう。 そして一瞬だけ唇を離し、俺の体は再びベッドへと押し倒されてしまっていた。
もうそうなってしまった後というのは、何度も何度も角度を変えて雄介が飽きるまで唇を重ねられる。
「ちょ……ゆ、雄介っ!」
と両手を使って、思いっきり雄介の胸を押し退けようと俺は力一杯腕に力を入れると、やっと退いてくれたようだ。
「スーツが皺になんだろっ!?」
「そんなん、クリーニングに出したらええやんかぁ……」
「俺のも一応ブランドもんなの……」
「へ? 今日の為に、望もブランドもんにしたのか?」
「あ、当たり前じゃねぇか……婚約指輪を買いに宝石店に行くのに、安物のスーツじゃ普通行かねぇだろうが……お前だって実際、ブランドもんのスーツで行ったんだろ? しかも、お前の場合には、もう、ちゃっかりハンガーに掛けてるしよ……」
「だけど、ズボンの方は、まだやで……」
俺の方は「そんな事は分かってる」と付け加えると、
「とりあえず、スーツ脱いでからな……」
「風呂は?」
「入るに決まってんだろ……」
「ほな、スーツ脱いで風呂に入ったら、ええって事で……」
「……お前、腹の方は大丈夫なのか?」
確か、当初はそれが目的でここに来たような気がしたのだけど、
「んー、腹なぁ……なんやろ? 望とおったら、そういう事やなくてな……さっき、言ったみたいに望を食べたい気分やねんなぁ……」
本当に今日の雄介というのは、どういうテンションなんであろうか。 こっちがため息を吐きたくなるような言葉に眉間に皺を寄せる俺。
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