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ー未知ー63

 確かにたった五文字の言葉なのかもしれないけど、その五文字が簡単に口から出たなら苦労はしないだろう。  だけど雄介の場合には本当の簡単に感謝の言葉というのが口から出て来るのだ。  そう思うと何だか今日の俺はそんな雄介に悔しくなってきて、悪戯心に火がついてしまったのか、雄介の頬を両手で包み再び唇を重ねるのだった。  そんな俺に未だに一瞬だけ目を丸くする雄介。  本当、俺からしてみたら、そんなリアクションをしてくれる雄介の事がもっと好きになってきてしまう。  それはきっと本当に今の俺というには雄介の事が好きだからなのであろう。  雄介の方は俺に軽く微笑むと今度は雄介から唇を重ねて来てくれるのだ。  でもこれをさっきからずっと繰り返しではないだろうか。  今日の俺達というのは本当になかなか先に進んで無いような気がする。  だけどさっき雄介が『今日は俺のペースで行かせてもらう』と言っていたのだから、本当に今日は雄介のペースでってことなんだろう。 ということはこれが雄介のペースっていうところなのであろうか。  でも何だか今日は心地いい気がする。  だって島で住むようになってからは、和也達も一緒に暮らしていて必ず隣には和也達が居るっていう状態だったのだから、こう逆にゆっくりと体を重ねるっていうことが出来てなかったのかもしれないのだから。 だからこうしてゆっくりと出来たのは確かに今だけなのかもしれない。  俺の方はちょっと意地悪気にというのか、そこが気になったからなのか、俺の口から意外なことを雄介に聞いてみるのだ。 「なぁ、今日は何で、こんなにもゆっくり事を進めてるんだ?」 「ん? ……嫌か?」  そんな俺からしてみたら意外そうな雄介の言葉に一瞬にして顔が赤くなったのが分かった。  ちょっとたまには俺から意地悪なことを仕掛けてみようと思ったのに、逆に雄介には意地悪なことを聞かれてしまったからなのであろう。  そこで俺の方はその雄介からの質問に対して完全に雄介から視線を逸らしてしまう。 「あ、えー……あ、そうだなぁ……」  そんな風に考えてしまっている俺に雄介の方は何でかクスクスとしてしまっていた。  そんな雄介に俺の方は頬を膨らませる。 そして雄介のことを見上げるのだ。 「スマンなぁ……なんや、急に望らしくないようなこと言うから、つい、こっちも意地悪なこと聞いてもうたみたいで……」  そんでも雄介の方はまだまだクスクスとしていた。 「ってか、じゃあ、今さっきの雄介の言葉っていうのは、意地悪で聞いて来たのか?」  まだまだ俺の方は頬を膨らませたままだ。

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