614 / 656

ー未知ー109

 その表情を見ると、俺も微笑ましく感じてくる。  今までに本当にここまで愛おしい人に出会えるとは、思ってもみなかった。それが理由かもしれない。  一緒にいると楽しい人、一緒にいて楽だと感じる人、一緒にいて幸せだと思える人が、本当の結婚相手なのだろう。  そう考えていると、今度は俺が微笑ましそうな表情で雄介を見上げていたかもしれない。 「……どうしたんだ?」 「……え?」  雄介の言葉に俺は顔を上げる。 むしろ、雄介の方を見つめていた。 「あー、そのな……」  雄介がこう言いにくそうにしているのは、俺にとって都合の悪いことかもしれない。 やっぱり人間だから、下心の方なのかもしれない。 「あー、なんていうんか……あー、なんやろ? 今日の望はこうご機嫌なんちゃう?」  視線を逸らしてまで言う雄介に、俺は無意識のうちにプッと吹き出してしまった。  まさかたったそんなことで、雄介がいいよどめてしまっていたとは思わなかった。  まあ、きっと、そこは俺と昔から付き合っているから仕方がないところなのだろう。  人間が簡単に性格を変えられないように、こういう時だって長年俺がそういう性格だったから、むしろ雄介の方が遠慮深くなってしまったのだろう。  だから俺は、雄介の頬を両手で包み、 「なぁ……もう、俺のことは今までと違って、そんなに遠慮しなくていいんだって……むしろ、これからは夫夫として一緒にいるんだから、俺に遠慮しなくていいんだからな。ってか、夫夫になるのに、俺に遠慮するんじゃねぇよ……分かったな!」  そう言いながら俺は、年を取ったような口調になってしまった。  気持ち的に力が入ってしまっていたのか、雄介の顔が潰れるほどに変な顔になってしまっているのを見てしまい、俺は思わずそんな雄介に笑ってしまった。 「ちょ、なにわらうとうねん……」  頬を俺の手で挟まれているせいか、言葉まで言葉になっていなくて、俺は再び雄介に笑ってしまう。  きっと今の雄介はこう言いたかったのだろう。 『ちょっ、話せないやんか……』  と……。  とりあえず俺は雄介の頬を包んでいた手を離すと、 「ま、そういうことだからな……」 「え? あ、まぁ……そうやねんけど……ホンマに、望は怒らへん?」」  雄介の言葉に、俺は目を丸くして彼を見つめる。 だが、そこにいる雄介は、まるでイタズラした子犬が飼い主に怒られているような感じに思える。 わざとなのか、本気なのか? わからないが、こんなことでも今は幸せに思えるので、なんだか不思議だ。

ともだちにシェアしよう!