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ー未知ー111

 それから一週間ほど経った日だったろうか。 急に雄介のスマホが着信音を鳴らしたのだから。   俺達と連絡を取る人々というのは、本当に指で数える人しかいない。  久々に和也だろうか。 いや、昼間の四時半はまだ仕事している時間だろう。 では俺の親父からなのであろうか。 いや、親父だったら、俺の方に電話がかかってくるだろうから、そこも違うだろう。 ということは確率的に高いのは、雄介のお姉さんで美里さんの可能性が高いだろう。  雄介は料理をしていた手を離すと、画面を覗き、着信を確認すると、気持ち的に緊張したような面持ちで電話に出るのだ。 とりあえず、料理していた手を止めて、ダイニングテーブルに腰を下ろす。  俺の方は元から、ダイニングテーブルに腰をおろしていたのだから、急に俺の目の前に現れた雄介に目をパチクリとさせていただけだ。 そして雄介はスピーカーにして、スマホから聞こえてきた声に、やっと電話をかけてきた主の正体が分かるのだ。 「ん? なんや? 姉貴……」  といつものように返事をしてしまっている雄介。 『ちょっと! 雄ちゃん! 何で私が雄ちゃんに電話してきたのか? っていうの分かってないの?! そんな感じなら、電話切るわよっ!』 「あー!」  そう、雄介の方はやっと気付いたのであろう。 急に背筋を伸ばしたかと思うと、真剣な瞳になって、 「ど、どうしたんでしょうか? お姉さん……」  若干その口調に心の中で笑いながらも、どうやら雄介的に咄嗟に出た敬語だったらしい。  きっとまだ心の準備が整ってなかったという事だろう。 「雄ちゃん達との話し合いの日、明日でいいかしら? で、場所は何処にすればいい?」  全くもって、場所に関しては雄介と話し合ってこなかったかもしれない。  ファミレスで、こんな真剣な話は出来ないだろう。 喫茶店でもファミレスと同じような環境なのだから難しい。 それならやはりここは家でか? 雄介のお姉さんの家ということになるのかもしれない。  だけど雄介のお姉さんの家にお邪魔するのではなく、ここは俺達の家で雄介のお姉さんのことをおもてなしするのが普通なのかもしれない。 と思った俺は、スマホメモ帳にそれを書いて雄介に読ませる。  その文章に頷く雄介。 「とりあえず、場所の方は、うちで宜しいでしょうか?」  と未だに変な敬語になってしまっている雄介。  本当に咄嗟というのか、兄弟間での敬語というのは難しいのかもしれない。  ってか、敬語的には合っているのかもしれないのだけど、俺の方が雄介の敬語に慣れてないだけなのかもしれないということだ。

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